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業界トレンド

インバウンド2.0と飲食店の戦略

インバウンドは「買う」から「体験する」へと重心を移しました。訪日客数と消費額が過去最高を更新する中、支出の軸は宿泊・飲食・交通などのサービス消費へと明確にシフトしています。この「インバウンド2.0」の本質は、量の拡大から質の深化への転換です。本稿では観光庁統計をもとに、訪日客の飲食消費、多言語・決済対応、そしてオーバーツーリズムという反作用までを含め、飲食店が取るべき戦略を冷静に読み解きます。

現状把握:消費額9.5兆円、飲食費は2兆円超

まず規模を確認します。2025年の訪日外客数は4,268万人で過去最高を更新し、訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円と前年比16.4%増で過去最高を記録しました(出典: 観光庁、2026年)。このうち飲食費は2兆711億円、構成比21.9%を占め、宿泊費(36.6%)、買い物代(27.0%)に次ぐ第3位です(出典: 観光庁、2026年)。

費目構成の変化が重要です。宿泊・飲食・交通のサービス費用が全体の約7割を占め、買い物中心から「滞在・体験型」へと明確にシフトしています(出典: 観光庁、2026年)。かつての「爆買い」を象徴としたインバウンド1.0から、体験消費を軸とする2.0への移行が、データ上も裏付けられます。

構造要因の分析:円安と滞在長期化

インバウンド2.0を支える構造要因は主に二つです。第1は円安です。1人当たり旅行支出は22万9千円と、コロナ禍前の2019年比で約1.4倍に増加しました(出典: 観光庁、2026年)。円安により訪日客にとって日本の飲食は割安感が高まり、高付加価値メニューへの支出余力が生まれていると考えられます。

第2は滞在の長期化とリピーター化です。国籍・地域別では中国・台湾・韓国・米国・香港の順で消費額が多く、上位5カ国地域で全体の65.7%を占めます(出典: 観光庁、2025年)。近隣アジアが「訪日の日常化」でリピーターとなる一方、欧米豪は高付加価値化へと向かうとされ、セグメントごとの戦略が問われる局面と考えられます。

ただし、この構造にはリスクもあります。2025年12月には中国政府が訪日の自粛を呼びかけ、中国人訪日客が大幅に減少しました(出典: 各種報道、2026年)。特定国への依存は地政学的リスクを伴うため、需要の多元化が課題とされます。

主要プレイヤーの動き:対応度で類型化

飲食店のインバウンド対応は、大きく3類型に整理できます。第1は基礎対応型で、多言語メニューとキャッシュレス決済の整備にとどまる業態です。訪日客の多くはクレジットカードやモバイル決済に慣れており、現金のみの店舗は敬遠される傾向があるとされます(出典: 業界調査、2025年)。

第2は高付加価値型で、酒ペアリングや高価格帯コースで、上昇した支出余力を客単価に転換する業態です。第3は体験提供型で、調理体験や産地ストーリーを加え、食事を体験コンテンツとして設計する業態です。インバウンド2.0の体験シフトを踏まえると、第3型の価値が高まると考えられます。

ただし、反対意見も併記します。インバウンド需要で価格が高騰し、地元住民が利用しにくくなる「価格排除」が指摘されています。北海道ニセコや沖縄のリゾート地域では、地元住民から「自分の街で外食できない」との声が上がっています(出典: 業界報道、2025年)。訪日客とそれ以外で価格を分ける二重価格の議論も活発化していますが、「差別」と受け取られるリスクもあり、導入を断念した店もあります(出典: 日経ビジネス、2025年)。

海外との比較:スペインは観光収入1,300億ユーロ

海外と比較すると、日本の位置が見えます。国連観光機関によれば、2025年の世界の国際観光収入は約1.9兆ドル、国際観光客数は約15億2,000万人とされます(出典: 国連観光機関、2025年)。観光大国のスペインは2025年に外国人訪問者が9,680万人に達し、観光収入は約1,347億ユーロと過去最高を記録しました(出典: 各種報道、2026年)。

スペインやフランスは「多すぎる観光客」に長く悩まされてきた先進例です。バルセロナなどでは宿泊税や入場規制、地区住民との共生策が議論されてきました。日本のオーバーツーリズム議論は、こうした欧州の経験を参照点とする余地があると考えられます。

中期予測:3つのシナリオ

2026年から3〜5年の中期を、仮説として3つのシナリオで描きます。

第1の「体験深化シナリオ」では、食を体験コンテンツ化できた店が客単価を伸ばし、地方の高付加価値業態も恩恵を受けます。第2の「分散シナリオ」では、都市部の混雑回避と地方誘客促進が進み、需要が地方に広がります。第3の「反動シナリオ」では、価格排除や中国依存リスクが顕在化し、需要が不安定に推移します。

経営者への示唆

第1に、多言語メニューとキャッシュレス決済は「対応」ではなく「入店の前提条件」と考えるべきです。アレルギー・宗教・ベジタリアン対応の表記は、客層の裾野を広げる土台となります。第2に、高付加価値化は「体験」とセットで設計すると説得力が高まります。単なる値上げではなく、体験に見合う価格という納得感が重要と考えられます。

第3に、特定国への依存はリスクとして認識し、客層の多元化を図るべきです。中国依存の高い店舗は、送客元の分散が需要の安定につながります。第4に、二重価格は「差別」と受け取られるリスクがあるため、付加サービスの対価として設計するなど慎重な設計が求められます。データに基づく冷静な判断が、インバウンド2.0を乗りこなす土台となります。

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参考・引用元

https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001992584.pdf

https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00071.html

https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001897812.pdf

https://www.jnto.go.jp/news/press/20251217_monthly.html

https://www.untourism.int/news/international-tourist-arrivals-up-4-in-2025-reflecting-strong-travel-demand-around-the-world

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/011300725/

https://www.timeout.jp/tokyo/ja/news/dual-pricing-debate-in-japan-011926