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物語・人物

鳥貴族が業界を変えた 280円均一の真実 ― 大倉忠司が東大阪9坪から始めた焼鳥革命

※本記事は書籍・新聞・自社IR・公式発表などの公開情報をもとに再構成した記事です。確認できない事実は記載していません。直接引用には出典を併記しています。

大阪府東大阪市、近鉄大阪線の俊徳道駅。改札を出てすぐの一角に、2025年の春、見覚えのある赤い看板が戻ってきました。「じゃんぼ焼鳥 鳥貴族」。創業40周年を記念し、創業の地に1号店が再現されたのです(東大阪経済新聞 2025年5月)。九坪、二十七席。いまや国内600店舗を超える巨大チェーンの原点は、この小さな焼鳥屋でした。その四十年は、日本の外食が「安さ」とどう向き合ってきたかの記録でもあります。

九坪二十七席から始まった

鳥貴族の創業者は、大倉忠司氏です。1960年2月、大阪府に生まれました。調理師専門学校を卒業後、大手ホテルのレストランにウェイターとして勤め、その後、地元の焼鳥店で修業を積みます。そして1985年5月1日、東大阪市の俊徳道駅前に1号店を開きました(鳥貴族 公式・各社報道)。

出発点は、決して恵まれたものではありませんでした。九坪、二十七席という極小の店舗。資金も人脈も潤沢ではありません。翌1986年に会社(現在の株式会社鳥貴族)を設立し、当初は年に一店舗ほどのゆるやかなペースで店を増やしていきました。爆発的な成長は、もっと後のことです。

大倉氏には、創業期から掲げ続ける言葉があります。「たかが焼鳥屋で、世の中を変えたい」。同社が「永遠の理念」と呼ぶこの言葉は、焼鳥屋という業態を通じて外食産業の社会的地位を高めるという志を表しています(経営者通信Online ほか各インタビュー)。1000店舗という数値目標も、この理念を実現するための通過点にすぎない、という位置づけです。

「280円均一」という発明

鳥貴族を語るうえで欠かせないのが、全品均一価格というモデルです。創業当初の価格は均一250円でした。そして1989年、消費税が導入されたタイミングで「税抜き280円均一」を打ち出します(各報道)。この「280円均一」が、その後の鳥貴族を全国区へと押し上げる原動力になりました。

均一価格の利点は、価格訴求だけではありません。注文のたびに値段を確認する手間がなく、客は安心して注文できます。会計も明朗です。さらに店舗側にとっては、メニュー設計・原価管理・オペレーションを単純化できるという大きな経営上のメリットがありました。チェーンストア理論の考え方を取り入れ、品目を絞り込み、誰がやっても一定の品質で回る仕組みを磨き上げていったのです。

ただし、安さを「質を落とすこと」で実現したわけではない点が、鳥貴族の独自性です。同社は焼鳥を店内で串打ちし、店で仕込むスタイルを守ってきました。セントラルキッチンで一括加工してしまえばコストは下がりますが、鳥貴族はそこに踏み込みませんでした。共通化したのは主にタレなど一部にとどめ、調理の核心は店舗に残したのです。

「国産国消」への二年半

品質へのこだわりを象徴するのが、食材の国産化です。大倉氏の発案で2014年から始まった「国産国消」と呼ぶ取り組みでは、一部に使っていた輸入食材を国産へと切り替えていきました。およそ二年半をかけて国産比率を高め、2016年10月、ついに「食材100%国産」を達成します(日本経済新聞「鳥貴族創業者」連載 ほか)。

これは経営判断として、簡単な決断ではありません。国産食材は輸入品より高くつきます。それでも280円均一を維持したまま国産化を進めたところに、「安さと質は両立できる」という大倉氏の信念が表れています。原価率を引き上げてでも、客に出すものの中身で勝負する。価格は据え置きながら価値を上げるという、デフレ期には逆説的とも映る選択でした。

二十八年ぶりの値上げ

そして2017年秋、鳥貴族は大きな決断をします。全品280円(税別)均一から298円(税別)への値上げです。1989年に250円から280円へ引き上げて以来、実に二十八年ぶりの価格改定でした(各報道)。

この値上げについて、大倉氏はデフレからの転換を見据えていたと語っています。報道によれば、第二次安倍内閣の経済政策が出始めた頃から「政策として物価を上げていくのだから、流れは変わる」と意識し、いずれ280円均一からの値上げを検討する時が来ると考えていたとされます。直接の引き金となったのは、国産化を進めるなかでのネギなど国産野菜の高騰が想定を超えたことでした。

「安いことそのもの」を目的にしてきたのではなく、「適正な価格で、いいものを」という発想だったことが、この決断からは読み取れます。とはいえ、長年親しまれた「280円」という看板数字を変えることには、相応の勇気が必要でした。値上げ直後は来客動向に影響も出たと報じられており、価格と価値のバランスを取り直す難しさを物語っています。

「390円」になっても残るもの

値上げはその後も続きます。原材料費や酒類の仕入価格上昇、最低賃金の継続的な引き上げを背景に、鳥貴族は税込価格で段階的な改定を重ねました。2022年に350円、2023年に360円、2024年5月に370円、そして2025年には390円(税抜355円)へと推移しています(鳥貴族 公式の価格改定告知 ほか各報道)。

アルバイトに依存する度合いが高い居酒屋業態では、人件費の上昇が経営を直接圧迫します。円安や資源高も重なり、「均一価格を維持しながら利益を確保する」という創業以来の難題は、いまも続いています。それでも鳥貴族が「全品均一」という看板を手放さないのは、それがブランドの中核だからにほかなりません。

運営する株式会社エターナルホスピタリティグループ(旧・鳥貴族ホールディングス、証券コード3193)は、2025年7月期に過去最高水準の売上を計上し、米国カリフォルニアや韓国、台湾、上海、香港など海外への出店も進めています(同社IR・各報道)。「YAKITORI」を世界の言葉にするという新たなビジョンのもと、焼鳥という日本の大衆文化を世界へ広げようとしています。

現場の経営者が学べること

鳥貴族の四十年から、規模を問わず多くの飲食店が学べる原則があります。

第一に、価格を「仕組み」として設計するという発想です。均一価格は単なる安売りではなく、注文・会計・原価管理・オペレーションを同時に簡素化する経営装置でした。価格は売り方そのものであり、店全体の設計図になり得ます。

第二に、安さと質の二者択一に逃げない姿勢です。国産100%化に二年半をかけ、店内串打ちを守ったように、価格を抑えながら中身で差をつける道は存在します。安いから手を抜く、という発想とは正反対です。

第三に、理念を数字の上位に置くことです。「焼鳥屋で世の中を明るくしたい」という言葉が先にあり、店舗数はその手段とされてきました。何のために店を開くのかという問いが、値上げのような難しい局面で判断の軸になります。

価格をいつ、どれだけ動かすか。安さと価値のどちらを優先するか。これらは、いまを生きるすべての飲食店経営者が直面する問いです。東大阪の九坪から始まった一軒の焼鳥屋の歩みは、その問いに正解はなくとも「軸を持て」という示唆を与えてくれます。

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参考・引用元

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%80%89%E5%BF%A0%E5%8F%B8

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E8%B2%B4%E6%97%8F

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD254YJ0V21C22A1000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD080T10Y2A201C2000000/

https://toyokeizai.net/articles/-/564872

https://torikizoku.co.jp/assets/uploads/2024/03/2024.03.22.pdf

https://higashiosaka.keizai.biz/headline/2223/

https://www.projectdesign.jp/articles/5aee0207-86f8-496a-997c-a4afb0531f93

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001928.000020945.html