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物語・人物

サイゼリヤ・正垣泰彦の数値経営哲学 ― 「売れているのがおいしい料理だ」の真意

※本記事は書籍・新聞・自社公式サイトなどの公開情報をもとに再構成した記事です。確認できない事実は記載していません。直接引用には出典を併記しています。

古い雑居ビルの二階、わずかな席数の洋食店。そこに、一人の若い店主が立っていました。客が来ない。なぜ来ないのか。彼は原因と結果を考えました。大学で学んだ物理学の頭で。やがて彼は、価格を六〜七割引きにまで下げるという「実験」に踏み切ります。それが、いま日本全国に広がるサイゼリヤの、最初の転換点でした。

火事から始まった会社

サイゼリヤの創業者は、正垣泰彦氏です。1946年1月、兵庫県に生まれました。東京理科大学で物理学を学ぶ在学中の1967年、千葉県の本八幡で洋食店「サイゼリヤ」を開業しました(サイゼリヤ 公式サイト ほか)。

しかし出発は順風満帆とは程遠いものでした。開店当初は思うように客が来ず、さらに開業から間もなく店が火事で全焼してしまいます。1968年、同じ本八幡でイタリア料理店「サイゼリヤ」として再出発しました(公式サイト・各報道)。経営の原点が「失敗」と「災難」にあるという事実は、正垣氏の理論を語るうえで欠かせない出発点です。

「六〜七割引き」という物理実験

客が来ないという現象に、正垣氏は「運だから」「味が悪いから」という説明で逃げませんでした。原因と結果を切り分け、仮説を立てて検証する。それが物理学のアプローチです。彼は価格を大幅に下げるという実験を試みました。

結果、店は一転して繁盛店へと変わります。正垣氏は当時の手応えを、「商品を絞り込んだので無駄な仕入れがなくなり、効率的に提供できるようにもなり、低価格でも十分採算が取れるようになった」と振り返っています(各インタビュー)。ここには重要な順番があります。安くしたから売れた、だけではないのです。価格を下げるという制約が、品目の絞り込みと効率化を強制し、それが採算を成り立たせた。低価格は「結果」ではなく「原因」として経営を改造したのです。

「おいしいから売れるのではない」

正垣氏の経営思想を最も端的に示すのが、著書のタイトルです。『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』。2011年に日経BP社から刊行されたこの本は、『日経レストラン』誌の連載をもとにしています(日経BP)。

このタイトルには、「自分の店の料理がおいしいと思い込んではいけない」という戒めが込められています。自分の料理を「うまい」と思ってしまうと、売れない原因を客や景気のせいにしてしまう。「良いものは売れる」という考え方は天動説のようなもので、そこで思考が止まるという。売れている事実のほうが客の支持を示しており、そこから改善を続けるべきだという姿勢です(同書・各書評)。この「天動説を捨てろ」という発想は、物理学出身の正垣氏らしい表現です。

ミラノ風ドリアを「まずい」と言う会長

この思想は、看板メニューへの姿勢にも表れます。1983年の発売以来、ミラノ風ドリアはサイゼリヤを代表するメニューですが、正垣氏はこれを手放しで誉めません。ビジネス誌の取材に対し、「ミラノ風ドリアはなんてまずいんだ」と漏らすと伝えられます(PRESIDENT オンライン)。「安くて美味しい」と思った瞬間に、やることがなくなるというのです。

同社によれば、ミラノ風ドリアは発売以来、何度も原材料や調理・加工の見直しを重ねてきました。人気メニューでありながら、「まだ改善できる」という前提を手放さない。この姿勢は、自社の看板商品を「完成品」と見なした瞬間に成長が止まる、という警鐘として読めます。

生産性を「測る」経営

正垣氏の数値経営を象徴するのが、人時生産性(社員一人が一時間で生み出す付加価値)へのこだわりです。報道によれば、サイゼリヤは社員一人あたりの生産性で他の大手ファミレスを上回る水準を実現してきたとされます(致知出版社 WEB chichi ほか)。この生産性を支えるのが、調達・加工・物流・提供を一貫して自社で手がけるサプライチェーンと、全国の自社工場群です。

注目すべきは、この生産性が「動作の改善」にまで及んでいる点です。サイゼリヤは接客や調理の動作を細かく見直し、ムダな動きを削っていくことで知られています。店舗の動線、厨房の配置、一つひとつの提供動作を「測って」改善する。「よいサービス」という曖昧な言葉を、時間と動作という計測可能な量に置き換える。これが正垣流の数値経営です。

現場の経営者が学べること

正垣氏の哲学から、規模を問わず多くの飲食店が学べる原則があります。

第一に、原因と結果を切り分けるという思考法です。客が来ないのを「運」「景気」のせいにした瞬間、改善の道は閉ざされます。「売れていない」という事実を、自分の側の原因として引き受けるところから改善が始まります。

第二に、低価格を「結果」ではなく「設計制約」として使うことです。価格を下げるという制約は、品目の絞り込みとオペレーションの効率化を迫ります。制約が規律を生むという逆説です。

第三に、看板商品を完成品と見なさないことです。ミラノ風ドリアを「まずい」と言い続ける姿勢は、成功体験への満足が成長を止めるという警戒です。

第四に、曖昧な品質を測れる量に置き換えることです。「よいサービス」「効率」を、時間や動作という数字に落とし込むことで、改善は初めて可能になります。

本八幡の雑居ビルの二階で価格を下げた一人の物理学生の「実験」は、半世紀を超えて日本の外食に「数字で考える」という姿勢を示し続けています。

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📖 さらに深く知る(第3弾より)

参考・引用元

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E5%9E%A3%E6%B3%B0%E5%BD%A6

https://www.saizeriya.co.jp/concept/founding/

https://www.saizeriya.co.jp/corporate/information/history/

https://president.jp/articles/-/82570

https://www.chichi.co.jp/web/20211114_shougaki_yasuhiko/

https://the-shashi.com/tse/7581/

https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/tpsalon/yasuhiko-shogaki.html

https://bookplus.nikkei.com/atcl/author/00971/