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物語・人物

くら寿司のDX、回転寿司の到達点

目の前を、抗菌カバーをまとった皿が流れていく

平日の夜、ファミリー連れで賑わうくら寿司の店内。レーンの上を、透明なカバーをまとった寿司が次々と流れていきます。客が皿を取るとカバーが開き、取らなければ閉じたままです。食べ終えた皿はテーブル端の投入口へ。数枚たまると、画面でガチャが回り、子供が歓声を上げます。注文も会計も、多くはタッチパネルと機械が処理します。この一連の仕組みは、一日にして生まれたものではありません。本稿では、IR・決算と公式情報をもとに、くら寿司が重ねてきた回転寿司のDXを読み解きます。

事実の枠組み

くら寿司は1977年5月、田中邦彦氏が大阪府堺市で寿司店を開業したところに始まります。田中氏は1951年生まれの実業家で、その後1995年に株式会社くらコーポレーションを設立しました(出典: Wikipedia)。

くら寿司は、化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料という「四大添加物」を一切使用しないことを掲げてきました。同社は、ガリや醤油、酢、ダシなど店舗で扱う200種類以上のすべての食材で四大添加物を使用していないと説明しています(出典: くら寿司公式)。

業績も拡大しています。2024年10月期の連結売上高は2,349億円と過去最高を更新し、期末店舗数はすべて直営で677店舗(米国64店舗、アジア61店舗を含む)となりました(出典: くら寿司2024年10月期決算短信)。2025年10月期の売上高は約2,451億円、期末店舗数は687店舗(米国79店舗を含む)となりました(出典: くら寿司2025年10月期決算短信)。

物語の核

ビッくらポンは「水回収システム」から生まれた

くら寿司を象徴する「ビッくらポン!」は、単独の思いつきではなく、業務課題の解決から生まれました。キッカケは、1996年に開発された「水回収システム」でした。このシステムは、女性利用者からの「食べた皿の枚数がほかの人にわかってしまうのが恥ずかしい」という悩みを解消するために生まれたとされます(出典: 日経クロストレンド)。

その後、子供たちが楽しそうに皿を投入する様子からヒントを得て、2000年にビッくらポンの導入が始まりました(出典: 日経クロストレンド)。当初はタッチパネル導入前で、ルーレット式のアナログなゲームだったと伝えられています(出典: ウォーカープラス)。投入口に入れた皿は、自動皿カウンター水回収システムで正確にカウントされます。「恥ずかしさ」という顧客の感情を起点に、カウントとエンタメを同時に成立させた点が、この装置の設計思想です。

この発明を担うのが、社内の「テクノロジー開発部」です。同部のマネジャーは、社長の田中邦彦が中心となって水回収システムを作り上げ、その後、客が楽しんで皿を投入できるよう、水回収システムと連動するビッくらポンが生まれたと語っています(出典: 日経クロストレンド)。

抗菌寿司カバー「鮮度くん」と海外出店

回転レーンの上を流れる抗菌寿司カバー「鮮度くん」は、衛生と海外展開の両方から生まれました。ITmediaによれば、開発のきっかけには2つの出来事がありました。1つは2009年から本格化した海外展開で、米国・ロサンゼルスをはじめ、衛生管理上、寿司カバーがないと営業許可を取れない国や地域があったことです(出典: ITmedia ビジネスオンライン)。

もう1つは、食材検査に来た保健所の職員から「食中毒は空気中の菌からの飛沫感染も大きく影響する」というアドバイスがあったことでした。約1年半後の2011年に抗菌寿司カバー鮮度くんが誕生しました(出典: ITmedia ビジネスオンライン)。このカバーは特許を取得しており、皿を載せるとカバーが閉まり、皿を取るとカバーが開く仕組みです(出典: Yahoo!ニュース 栄原潔)。

「抗菌寿司カバー鮮度くん」は、約100年の歴史を持つ地方発明表彰で発明奨励賞を受賞したと、くら寿司は発表しています(出典: くら寿司 プレスリリース)。衛生上の要請という制約が、結果として鮮度保持と出店可能な地域の拡大をもたらした点が、この発明の興味深いところです。

AIと無人化による店舗運営

くら寿司のDXは、接客と厨房の両方に及んでいます。同社は、回転レーン上から取った皿の枚数をAIを活用してカウントするシステムを導入し、従来の「皿カウンター水回収システム」とのダブルチェックで数え違いを防いでいます(出典: 日本経済新聞)。

需要予測もAIが担います。くら寿司は蓄積してきた客層や時間帯別の注文情報などのビッグデータをAIが分析し、精緻な需要予測に基づいて売れ筋商品の円滑な提供につなげています。AIが厨房作業を指示し、最小限の人員で店舗を運営できるようにしています(出典: 日刊工業新聞)。

2023年3月には、回転レーン上で取られた寿司皿を自動カウントするシステムに、抗菌寿司カバーの不審な開閉を検知できる機能を拡張した「新AIカメラシステム」を全店舗で導入しました(出典: くら寿司 プレスリリース)。さらに、来店から会計までを自動化するために、クラウド基盤とエッジ推論を組み合わせた仕組みを構築していると、くら寿司の事例は伝えています(出典: Google Cloud 公式ブログ)。

経営者の声

くら寿司の姿勢は、創業者と開発部門の言葉に表れています。

田中邦彦社長は、店づくりの思いについて「ファミレスのような家族団らんで楽しめる店にしたい」と考えていたと紹介されています(出典: ウォーカープラス)。「くら」という店名には、田中氏が幼少期に遊んだ倉敷市の「蔵の街」での高揚感を、子どもたちにも感じてほしいという思いが込められているとされます(出典: 寿司ウォーカー)。

テクノロジー開発部を統括するマネジャーは、ビッくらポン誕生の経緯について、田中氏が中心となって水回収システムを作り上げ、その後に連動するゲームとしてビッくらポンが生まれたと語っています(出典: 日経クロストレンド)。

これらの言葉には、テクノロジーを効率化のためだけでなく、「楽しさ」と「驚き」のためにも使うという一貫した姿勢が読み取れます。

学べる示唆

くら寿司のDXは、テクノロジー導入を考える飲食経営者に、いくつかの示唆を与えます。

第一に、「業務課題」と「顧客体験」を同じ装置で解く発想です。ビッくらポンは、皿のカウントと「枚数を見られたくない」という顧客の感情を、エンタメに転じました。コスト削減の装置が、同時に集客の装置になりうるという視点です。

第二に、制約を発明の起点にする姿勢です。抗菌寿司カバーは、海外の衛生規制という外部制約から生まれ、結果として鮮度保持と出店領域の拡大という価値を生みました。制約を「できない理由」ではなく「発明の出発点」として扱う姿勢は、規模を問わず参考になります。

第三に、無人化を「人を減らす」だけでなく「人を振り向ける」と見ることです。くら寿司は、AIカメラや需要予測で提供・カウント・厨房指示を自動化し、最小限の人員で店舗を回せる設計を目指しています。人手不足が長期化するなか、どの工程を機械に委ね、どの工程を人に残すかは、多くの店にとって現実的な問いです。

回転寿司の「当たり前」を、課題と体験と制約の交点から更新し続ける。それが、くら寿司のDXに貫く姿勢といえます。

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参考・引用元