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物語・人物

飲食業界を変える女性シェフ・経営者たち ― 厨房の少数派が切り拓いた新しい現場

※本記事は、書籍・雑誌・新聞・公式サイト・公開インタビューなど、すでに公開された一次情報のみをもとに構成しています。直接引用(「」)は出典を確認できた発言に限り、確認できない発言は「と語っている」などの形で出典を併記したうえで要約しました。新規取材は行っていません。

一日四名だけの店から、世界の舞台へ

東京・代々木上原。住宅街の一角に、看板らしい看板を持たない小さなレストランがあります。「été(エテ)」。一日にわずか一組四名だけを迎える、予約の取れない店として知られています。厨房に立つのは庄司夏子さん。フランス料理とパティスリーの境界を行き来しながら、日本人女性として世界の評価を次々と塗り替えてきた料理人です。

日本の厨房は、長く男性の世界でした。庄司さん自身、インタビューで「女性シェフは日本では全体の五%といわれる」圧倒的な男性優位の環境を語っています(出典:Premium Japan)。その少数派の側から、現場のあり方そのものを問い直す料理人・経営者が育ってきました。本記事では、受賞歴と公開された言葉から確認できる四人の歩みをたどります。

事実の枠組み ― 評価される「少数派」

この十年、日本の女性料理人をめぐる風景は変わりました。国内外の評価機関が、性別ではなく仕事の質で彼女たちを表舞台に押し上げています。

庄司夏子さんは、2020年に「アジアのベストレストラン50」で日本人女性として初めて「アジアのベストパティシエ賞」を受賞。さらに2022年には「アジアの最優秀女性シェフ賞」に選ばれました(出典:Premium Japan、Sustainable Japan by The Japan Times)。パリでは2019年、「ミシュランガイド フランス」で神崎千帆さんが日本人女性として初めて星を獲得しています(出典:PARIS mag、家庭画報)。

国内のホテル料理界でも、樋口宏江さんが2014年に志摩観光ホテル初の女性総料理長に就任し、2016年の伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担いました(出典:志摩観光ホテル公式、日経xwoman)。地方では桑木野恵子さんが、新潟・南魚沼の「里山十帖」で野菜料理を軸にした表現を磨き、世界的なベジタブルレストランの評価で上位に名を連ねています(出典:ヒトサラ、ZENB VOICES)。

共通するのは、誰も「女性だから」という理由で評価されてはいない、という事実です。

庄司夏子 ― 「待っていては来ない」を行動で示す

庄司さんは1989年、東京生まれ。2014年、24歳のときに代々木上原に「été」を開きました(出典:東京都創業NET、ヒトサラ)。マンゴーを使ったタルト「Fleurs d'été」は「幻のケーキ」と呼ばれ、世界中から注文が集まりました(出典:Premium Japan)。

彼女は料理人であると同時に、株式会社エテの代表取締役社長でもあります(出典:東京都創業NET)。作る人とつくる仕組みを動かす人、その両方を担っているのが特徴です。

庄司さんはインタビューで、自身のコンセプトを「職人技の表現」と述べ、日本では職人の価値が低く見られすぎていると語っています。世界の舞台で職人技に光を当てることで、後継者不足の解消につなげたい、という問題意識です(出典:飲食店.COM Foodist、highflyers)。

その姿勢は、受け身の対極にあります。庄司さんは「チャンスは黙って待っているだけではやって来ない」と語り、自らの行動とブランディングの重要性を強調してきました(出典:飲食店.COM Foodist)。LEONのインタビューでは、その仕事観が「自分の目標の達成でしか、わたしは癒されない」という言葉で見出しに掲げられています(出典:LEON)。

料理評論家・中村孝則さんとの対談では、食の世界のジェンダー平等そのものをテーマに語り合っています(出典:KIWAMINO)。腕で評価を勝ち取った当事者が、構造の話まで踏み込む。そこに彼女の影響力があります。

神崎千帆 ― パリで「日本人女性初」を更新する

神崎千帆さんは、パリ12区のレストラン「Virtus(ヴィルチュス)」のシェフです。夫であるマルセロ・ディ・ジャコモさんとのデュオで店を営みます(出典:PARIS mag、winart)。

二人が出会ったのは、コート・ダジュールの名店「Mirazur(ミラズール)」での修業時代でした。神崎さんはマウロ・コラグレコさんのもとでスーシェフを務め、当時一つ星だった店が二つ星へと評価を上げる過程に立ち会っています(出典:winart)。世界最高峰の現場で実力を蓄えた料理人です。

2019年1月、「ミシュランガイド フランス」で、神崎さんは日本人女性として初めて星を得ました(出典:PARIS mag、家庭画報)。本場フランスで、しかも女性として頂点の評価に近づく。その軌跡は、国境も性別も評価の前では絶対の壁ではないことを示しています。

樋口宏江 ― 60人を束ねるホテルの総料理長

三重県出身の樋口宏江さんは、1991年に志摩観光ホテルへ就職しました(出典:professions-of.jp)。長いキャリアを経て2014年、ホテル内の五つのレストラン・バーを統括する総料理長に就任します。同ホテル初の女性総料理長であり、約60人のスタッフを率いるリーダーです(出典:一休コンシェルジュ、professions-of.jp)。

翌2015年、樋口さんは2016年の伊勢志摩サミットのワーキングディナーを担当することになります。外務省からは三重県の食材を使うよう求められ、それが地元生産者との交流の始まりになったと語っています(出典:professions-of.jp、ヒトサラマガジン)。世界の首脳をもてなす料理が、地域とホテルを結び直すきっかけになりました。

リーダーとしての姿勢も独特です。日経xwomanの取材で、樋口さんは若手と一緒に下ごしらえに入る理由を語っています(出典:日経xwoman)。指示するだけでなく、同じ台に立つ。少数派として歩いてきた人ならではの、現場との距離の取り方がうかがえます。

桑木野恵子 ― 山に入り、野菜で世界と戦う

桑木野恵子さんは1980年生まれ。大学卒業後、エステサロン勤務を経て海外へ渡り、オーストラリアやインドなどでヨガと各国のベジタリアン料理を学びました。帰国後は東京のヴィーガンレストランで腕を磨き、2018年、新潟・南魚沼の宿「里山十帖」の料理長に就きます(出典:ヒトサラ、ZENB VOICES)。

里山十帖のレストラン「早苗饗(さなぶり)-SANABURI-」は、「ローカル・ガストロノミー」を掲げる店です。桑木野さんは早朝から自ら山に入って山菜を摘み、地元の生産者を訪ねてその日の野菜を仕入れます(出典:ヒトサラ)。土地そのものを皿に写し取る仕事です。

その独自性は世界でも評価されました。早苗饗はミシュランの星に加え、世界の野菜料理レストランを評価する企画で上位にランクインしています(出典:ヒトサラ、We're Smart World)。スパイスとアーユルヴェーダの知見を野菜に重ねる手法は、男性中心の和食・フレンチの系譜とは別の道筋から生まれたものです。

経営者・店長が学べる五つの視点

四人の歩みは、性別の物語にとどまりません。人手不足と多様な人材の時代に、現場を預かる経営者・店長が学べる原則がいくつもあります。

第一に、評価は仕事の質で勝ち取れるということです。庄司さん、神崎さんが示したのは、属性ではなく成果が扉を開くという事実でした。採用や登用の基準を属性で曇らせないことが、結果として強い現場をつくります。

第二に、つくる人と仕組みを動かす人を兼ねる発想です。庄司さんが料理人と会社代表を両立させているように、現場の技術と経営の視点を一人の中で接続できれば、店の打ち手は厚くなります。

第三に、地域との結び直しです。樋口さんも桑木野さんも、食材を通じて生産者と深くつながりました。仕入れを「買い物」から「関係づくり」へと引き上げることが、他店にない価値を生みます。

第四に、リーダーが同じ台に立つことです。樋口さんが若手と下ごしらえを共にするように、背中で見せる関与は、定着と育成の土台になります。

第五に、本流の外に道を引くことです。桑木野さんの野菜料理のように、主流の系譜と異なる強みは、模倣されにくい独自性になります。少数派の視点は、しばしば未開拓の市場への入り口です。

厨房の少数派だった料理人たちが、評価の最前線で現場のあり方を更新しています。その仕事は、性別を超えて、すべての店づくりへの示唆に満ちています。

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参考・引用元