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台風シーズン(7〜10月)前の3週間で組む飲食店BCP|休業判断・スタッフ安全・食材ロス・労務を逆算で備える
毎年8月から9月、台風の進路予報を見るたびに胃が痛くなる。これは飲食店を営む者の共通体験です。営業を強行して客が来なければ食材も人件費も丸損、休めば売上ゼロ、判断を誤ればスタッフを危険にさらします。台風は地震と違い、数日前から接近が読めます。だからこそ「その場の勘」で決めるのは最ももったいない対応です。本稿では、台風シーズン前の3週間で組む準備と、接近72時間前からの逆算タイムライン、そして休業時の労務という一番こじれやすい論点まで、現場目線で整理します。
台風が外食売上に与えるダメージは「数字」で見える
まず、台風がどれほど売上を削るかを直近データで確認します。2019年10月、東日本に甚大な被害を出した台風19号(令和元年東日本台風)が3連休を直撃しました。日本フードサービス協会の集計では、この月の外食産業全体の売上は前年同月比2.4%減、2カ月ぶりの前年割れとなりました。業態別の落ち込みは均一ではありません。居酒屋が8.6%減、ファミリーレストランが5.3%減(洋風7.8%減・和風9.1%減)、ディナーレストランが3.4%減と、夜営業・ハレの日需要に依存する業態ほど深く沈んでいます(出典: 流通ニュース「日本フードサービス協会/台風上陸10月の外食産業売上2カ月ぶり減少」)。
一方で同じ協会データを別の月で見ると、別の顔も見えます。2024年7月の外食売上は前年同月比4.3%増でした。首都圏では局地的なゲリラ豪雨が起き、駅に近い店舗は雨宿りする客を取り込んだと協会は分析しています(出典: 日本経済新聞「外食売上高、7月は4.3%増 ゲリラ豪雨で雨宿りも寄与」)。つまり、弱い雨は立地次第でプラスにもなりますが、暴風域を伴う台風は来店動機そのものを消し、休業・時短を強いる点で性質が異なります。この差を取り違えると判断を誤ります。
接近時には大手チェーンが先んじて手を打ちます。2024年8月末に鹿児島へ上陸した台風10号(サンサン)では、くら寿司が大分・福岡・山口の5店舗を計画閉店、すかいらーくグループ(ガスト等)が広島・山口・愛媛・高知の全店ほか岡山23店・香川20店を順次閉店、セブン-イレブンは九州を中心に約1,000店を一時休業しました(出典: 飲食店ドットコム ジャーナル、日本経済新聞、東京海上ディーアール「令和6年台風第10号の特徴とその被害」)。資本力のある企業ほど「無理に開けない」判断を早く下しています。個人店も学ぶべき姿勢です。
そして台風は珍しい天災ではありません。気象庁の平年値(1991〜2020年平均)では、台風の日本接近数は7月2.1個、8月3.3個、9月3.3個、10月1.7個です。上陸数は8月0.9個、9月1.0個がピークです(出典: 気象庁統計、頭痛ーる「台風が多い時期はいつ?」)。年間で見れば7〜10月の4カ月に集中しており、毎年必ず何度かは判断を迫られる前提で備えるのが現実的です。
台風シーズン前の3週間でやる「平時の仕込み」
台風が接近してから連絡網を作るのは手遅れです。中小企業庁・内閣府のBCP(事業継続計画)の考え方でも、平常時の準備が成否を分けるとされています。8月のピークに間に合わせるなら、7月中旬から逆算して3週間で土台を組みます。
3週間前(シーズン入り直前): 判断基準と連絡体制を文書化する。 一番大事なのは「誰が・いつ・何を基準に・どう決めるか」を紙に落とすことです。後述する休業判断の基準(警報・特別警報・計画運休・警戒レベル)を決め、店長不在時の代理決裁者も指名します。内閣府の中小企業BCPの考え方では、緊急時に優先して継続・復旧すべき中核事業を絞り込み、目標復旧時間を定めておくことが企業存続の近道とされています(出典: 内閣府「中小企業BCP(緊急時企業存続計画)への取組について」)。飲食店なら「人命確保が最優先、次に食材・設備の保全、営業再開は安全確認後」と順位を明文化します。
2週間前: スタッフ全員の緊急連絡網と安否確認ルートを整える。 電話だけでは輻輳(ふくそう)でつながりません。LINEグループやチャットを主、電話を従とし、「台風時は店長から全員へ一斉連絡→各自が既読+一言返信」という具体フローまで決めます。中小企業庁のBCP指針でも、外出中・在宅中の従業員には安否確認システムや緊急連絡網を活用するとされています(出典: 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」)。あわせて各人の通勤手段と所要時間を一覧化しておくと、当日「誰なら安全に来られるか」を即判断できます。
1週間前〜随時: 物理的な備えと就業規則の確認。 屋外什器(のぼり・看板・置き看板・ゴミ容器)の固定・撤去手順、窓の養生資材(養生テープ・段ボール・飛散防止フィルム)、停電に備えた懐中電灯・モバイルバッテリー・雨漏り用バケツとモップを揃えます。同時に、休業時の賃金・休業手当の扱いを就業規則で確認しておきます(後述)。ここを曖昧にしたまま当日を迎えると、後でスタッフとの信頼を損ないます。
接近72時間前からの逆算タイムライン
気象庁の台風進路予報は5日先まで、暴風域に入る確率は72時間先まで6時間ごとに発表されます(出典: 気象庁、日本気象協会 tenki.jp「台風情報のみかた」)。この予報を軸に、接近何時間前に何をするかを決め打ちしておくと、当日慌てません。
72時間前(3日前)/予報円に自店地域が入ったら。 仕入れの調整を始めます。生鮮の発注を絞り、日持ちする在庫へ寄せます。コース・宴会・団体予約の有無を確認し、キャンセル発生に備えて発注を打つ前に予約客へ意向を確認します。コンサルタントも、材料を発注する前に予約をどうするか客に連絡することを勧めています(出典: note「飲食店の台風への備えについて」)。
48時間前(2日前)/暴風域確率が上がってきたら。 営業方針の第一報をスタッフへ共有します。「営業/時短/休業」の暫定方針と、最終判断のタイミング(例: 前日18時)を伝えます。SNS・公式サイト・予約サイトに「台風接近に伴い営業時間を変更する場合があります」と予告を掲示します。早めの告知は無駄足の予約客を減らし、信頼にもつながります。
24時間前(前日)/警報級が見込まれたら。 ここで営業可否を確定します。確定したら直ちにスタッフへ通達し、SNS・サイト・店頭・予約客へ告知します。屋外什器を撤去・固定し、窓の養生を行います。生鮮の追加発注は止め、当日提供できる範囲のメニューに絞ります。専門家のチェックでも、看板・のぼりの撤去保管、段ボールでの窓養生、屋外物の撤去が前日対応として挙げられています(出典: ピープル・ビジネス・オンライン「緊急事態マニュアル[台風対策]」)。
接近6〜12時間前(当日)/暴風域到達前。 営業する場合も、暴風が来る前に閉める前提で動きます。遠方から通うスタッフは先に帰し、近隣居住者で最小限を回します。退勤・帰宅のタイムリミット(例: 公共交通の計画運休発表時刻)を全員で共有します。停電に備え、POSや決済データの自動保存・クラウド同期を確認します。レジ締め・現金管理も早めに済ませます。
逆算の肝は、「暴風域が来てから閉める」のではなく「来る前に全員を安全圏へ帰す」ことです。判断が1〜2時間遅れるだけで、スタッフが帰宅困難に陥ります。
4つの軸で固める具体策
営業判断の基準を「気象情報」に紐づける
「何となく危なそう」では毎回ぶれます。判断を外部の客観情報に紐づけます。気象庁の防災気象情報は5段階の警戒レベルに対応しています(出典: 気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」)。実務では、(1)暴風警報が出たら時短、(2)特別警報や警戒レベル4相当が出たら休業、(3)主要鉄道が計画運休を発表したらスタッフの安全を優先して休業、といった「トリガー」を事前に決めておくと、その場の迷いが消えます。鉄道の計画運休は前日までに発表されることが多く、判断材料として有効です(出典: JR東日本 計画運休のお知らせ各種)。
スタッフの安全確保と帰宅困難対策
最優先は人命です。出勤前なら、交通手段が確保できないスタッフは出勤させない。これが原則です(出典: note「飲食店の台風への備えについて」)。営業中に状況が悪化したら、遠方者から順に帰宅させます。万一帰宅困難になった場合に備え、店内に水・食料・休める場所を確保しておきます。内閣府は帰宅困難者対策として「むやみに移動を開始しない」一斉帰宅抑制を基本原則とし、従業員のための3日分の備蓄を企業に求めています(出典: 内閣府「災害時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」)。台風は地震ほど長期化しませんが、暴風のピーク中は無理に外へ出さない判断が命を守ります。
食材ロスと設備保全
休業が読めたら、生鮮の発注を絞り、在庫を使い切るメニュー設計に切り替えます。それでも残る食材は、冷凍可能なものは下処理して冷凍し、スタッフ消費やまかないに回します。設備面では、停電に備え冷蔵・冷凍庫の開閉を最小限にし、復旧後の再起動手順を確認しておきます。屋外什器の飛散はガラス破損や近隣被害につながるため、ゴミ容器も含めて固定します。台風通過後は、ブレーカー・ガス元栓・漏水・ガス漏れを点検してから営業を再開します(出典: ピープル・ビジネス・オンライン「緊急事態マニュアル[台風対策]」)。
休業時の賃金・労務(断定せず、一般的な考え方として)
ここが最もこじれます。労務は個別事情で結論が変わるため、以下は一般的な考え方として押さえ、最終判断は社労士・弁護士に相談するのが安全です。
労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業に平均賃金の60%以上の休業手当を義務づけます。大規模災害で店舗の施設・設備が直接被災して営業不能になった場合は「不可抗力」とされ、原則として休業手当の支払い義務はないと解されています(出典: デイライト法律事務所、労働問題.com、労務SEARCH)。不可抗力の判断は、(1)原因が事業の外部で発生した事故であること、(2)経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けられない事故であること、の2要件で判断されます。
注意したいのは、店舗が無事なのに安全配慮を理由に使用者の判断で予防的に休業させた場合です。この場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、原則として平均賃金の60%以上の休業手当が必要と解されています(出典: デイライト法律事務所、厚生労働省 自然災害時のFAQの考え方)。交通機関の運休でスタッフが出勤できない場合は、店舗が営業可能でも本人が来られないため欠勤となり、ノーワーク・ノーペイの原則で賃金支払いは不要、休業手当も不要と整理されるのが一般的です(出典: 労働問題.com)。
実務では、就業規則や雇用契約で「災害時の休業の賃金は平均賃金の60%とする」等を事前に定めておくこと、年次有給休暇の取得を本人の希望で認めることが、トラブル回避に有効です(出典: 労働問題.com)。台風シーズン前に一度、自店の規定を点検しておくことを強く勧めます。
業態別に判断の重心は変わる
同じ台風でも、業態によって最適な動きは変わります。
居酒屋・バー・ディナーレストラン: 夜営業・予約依存が高く、台風時の落ち込みが最も深い業態です(2019年台風19号で居酒屋8.6%減)。団体・コース予約のキャンセル対応が要で、発注前の予約客確認が損失を最小化します。夜にピークが重なる台風なら、早めの休業判断が合理的です。
ファミリーレストラン・定食店: 昼需要があり、地域客が徒歩・近距離で来ます。台風の山が夜なら昼のみ営業して早仕舞いという選択も取れます。ただし2019年データでは家族客の外出控えで5.3%減と影響は大きく、安全を優先した時短が無難です。
カフェ・ファストフード・駅前店: 弱い雨なら雨宿り需要を拾える立地もあります(2024年7月の事例)。ただし暴風域に入れば話は別で、来店は途絶えます。テイクアウト・デリバリーへ重心を移し、悪天候時の宅配需要を取りに行く余地があります。雨天時にデリバリー利用が増える傾向は各種調査でも示されています(出典: フーズチャネル等)。
デリバリー・テイクアウト主体: 配達員の安全が最優先です。暴風時は無理に配達させず、店頭受取へ切り替えるか休止します。スタッフを危険にさらしてまで取る売上はありません。
共通する判断軸は「夜にピークが重なる台風ほど早く休む」「立地で雨宿り需要の有無を見極める」「業態を問わず人命優先」の三点です。
よくある失敗と回避策
現場で繰り返される失敗を挙げます。
判断が遅れて発注を打ってしまう。 キャンセルが出てから気づき、仕入れた生鮮が丸ごとロスになります。回避は、72時間前に予約客の意向を確認し、発注を絞ること。
告知が直前すぎて予約客が無駄足になる。 信頼を失います。回避は、48時間前に「変更の可能性あり」を予告し、24時間前に確定告知すること。
屋外什器の固定を忘れ、看板やゴミ容器が飛ぶ。 ガラス破損や近隣トラブルに発展します。回避は、前日チェックリストに「屋外物すべて」を入れ、蓋がロックできるゴミ容器を平時から使うこと(出典: 店サポ各記事)。
休業の賃金を当日その場で決め、後でもめる。 回避は、シーズン前に就業規則を点検し、休業手当・有給の扱いを事前に共有しておくこと。
スタッフの帰宅判断が遅れ、帰宅困難に。 回避は、計画運休の発表時刻を退勤リミットに紐づけ、遠方者から先に帰すこと。
いずれも「事前に決めていなかった」ことが原因です。当日の判断点を減らすほど、ミスは減ります。
台風接近時の判断・対応チェックリスト
接近が確実になったら、上から順に潰します。
振り返りと次への記録(BCPは一度作って終わりではない)
台風が過ぎたら、必ず振り返りを残します。中小企業庁・内閣府のBCPの考え方でも、計画は策定して終わりではなく、運用・点検・見直しのサイクルで磨き続けるものとされています(出典: 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」、内閣府)。
記録すべきは、(1)判断のトリガーは適切だったか(暴風警報での時短は早すぎ/遅すぎなかったか)、(2)連絡網は機能したか(返信が滞った人はいなかったか)、(3)食材ロスはどれくらい出たか、(4)告知のタイミングで予約客に迷惑をかけなかったか、(5)スタッフから安全面の不安は出なかったか、の5点です。気づきをその場でメモし、次のシーズン前に判断基準と連絡フローを更新します。この更新を毎年積み重ねた店ほど、翌年の台風で迷いがなくなります。台風対応は、経験を仕組みに変換できるかどうかの勝負です。
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参考・引用元
- 流通ニュース「日本フードサービス協会/台風上陸10月の外食産業売上2カ月ぶり減少」 https://www.ryutsuu.biz/sales/l112741.html
- 日本経済新聞「外食売上高、7月は4.3%増 ゲリラ豪雨で雨宿りも寄与」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC264BL0W4A820C2000000/
- 飲食店ドットコム ジャーナル「【台風10号】九州地方のくら寿司、ガストなどは計画閉店。飲食店が荒天時にやるべき3つの対策」 https://www.inshokuten.com/foodist/article/4970/
- 東京海上ディーアール「令和6年台風第10号の特徴とその被害」 https://www.tokio-dr.jp/publication/column/151.html
- 気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/alertlevel.html
- 日本気象協会 tenki.jp「台風情報のみかた」 https://tenki.jp/bousai/knowledge/5cb50a0.html
- 頭痛ーる「台風が多い時期はいつ?発生数や上陸数も」 https://zutool.jp/column/glossary/typhoon_season
- 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」 https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/download/bcppdf/bcpguide.pdf
- 内閣府「中小企業BCP(緊急時企業存続計画)への取組について」 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/pdf/bcppr_.pdf
- 内閣府「災害時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」 https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/index.html
- デイライト法律事務所「台風休業時の給与対応|従業員への休業手当は必要?」 https://www.komon-lawyer.jp/column/roumu/column104/
- 労働問題.com「台風で休業する場合,賃金・休業手当を支払う必要があるか?」 https://www.roudoumondai.com/qa/wages/leave_allowance_earthquake_or_typhoon.html
- 労務SEARCH「自然災害時に休業手当はもらえる?労働基準法と民法での規定の違い」 https://romsearch.officestation.jp/jinjiroumu/tetsuzuki/4503
- ピープル・ビジネス・オンライン「緊急事態マニュアル[台風対策]」 https://pbo-pbc.com/
- note「飲食店の台風への備えについて」 https://note.com/valhalla/n/n27eee1dbe0c8