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人手不足

退職を切り出されたときの引き留め判断|飲食店長の面談の進め方

「店長、ちょっとお話があるんですけど」。シフト終わりにそう切り出され、内心ひやりとした経験はありませんか。人手が足りない現場ほど、退職の申し出は重く響きます。宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.6%と全産業で高く、退職の相談は誰の店でも日常的に起こります。だからこそ問われるのが店長の初動です。引き留めるか、送り出すか。その判断と最初の数分の受け止め方が、店の後味と次の離職リスクを大きく左右します。本記事では、感情に流されず冷静に判断するための軸と、そのまま使える面談の進め方をまとめます。

まず動揺しない。その場で結論を出さない

退職の申し出は、店長にとって不意打ちに感じられます。しかし反射的な反応が、後々の関係をこじらせる最大の原因です。

第一声で否定しない

「えっ、なんで急に」「困るよ」といった言葉は、相手に「言わなければよかった」と思わせます。本人は何日も悩んだ末に切り出しています。まずは「話してくれてありがとう」と受け止める姿勢を見せてください。

その場で慰留も承諾もしない

勢いで引き留めの条件を口にしたり、逆にあっさり受理したりするのは避けます。「大事なことだから、一度ちゃんと話を聞かせてほしい」と伝え、改めて落ち着いて話す場を設けましょう。判断を保留する余白が、双方を冷静にします。

場所と時間を整える

忙しいピーク中の立ち話で結論を出してはいけません。バックヤードや営業後など、人目と時間に追われない場を選びます。相手が安心して本音を出せる環境づくりが、面談の質を決めます。

退職理由の建前と本音を聞き分ける

退職理由は、最初に語られる言葉が本心とは限りません。ある退職者調査では、約7割が本当の理由を伝えず建前を話していたとされます。

よくある建前と背景

「学業が忙しくて」「家庭の事情で」は角が立ちにくい定番です。その裏に、待遇への不満、人間関係のすれ違い、評価への納得感のなさが隠れていることは少なくありません。建前を頭ごなしに疑うのではなく、背景に関心を向ける姿勢が大切です。

理由を4つの型で整理する

本音はおおむね、待遇(時給・シフト)、人間関係、キャリア・進路、家庭や学業・体調の4つに分かれます。どの型かを見極めることで、店側で改善できる問題か、本人の人生設計に属する問題かが判断しやすくなります。

詰問ではなく傾聴で引き出す

「不満があったの」と問い詰めると本音は閉じます。「この半年、どんなときがつらかった」と過去から順にたどると、相手は具体的な場面を語りやすくなります。否定や反論を挟まず、最後まで聴く姿勢を保ちましょう。

引き留めるべきかを判断する4つの軸

引き留めが常に正解とは限りません。次の4つの軸で冷静に見極めます。

改善可能な理由か

シフトの組み方や役割分担など、店側の工夫で解消できる問題なら引き留める余地があります。一方、進学・転居・体調といった理由は、店の努力では変えられません。

本人にとって良い選択か

店の都合だけで考えないことが肝心です。本人のキャリアや生活にとって退職が前向きな一歩なら、無理に引き留めるのは誠実とは言えません。

他メンバーへの影響

問題のある言動が周囲の負担になっていた場合、引き留めがチーム全体の士気を下げることもあります。残るメンバーへの目配りも判断材料です。

カウンターオファーのリスク

時給上乗せなど条件を急に引き上げて引き留める手は、効果が一時的にとどまりやすいと指摘されています。一度退職を決めた人が条件だけで残っても、意欲が戻る保証はなく、約半数が1年以内に再離職したとの報告もあります。さらに「辞めると言えば待遇が上がる」という空気が広がり、他メンバーとの不公平感を生みかねません。安易な上乗せは慎重に扱うべきです。

引き留める場合の打ち手

引き留めると決めたら、気持ちに訴えるだけでは不十分です。具体策と期限をセットで示します。

改善は「いつ・何を」で約束する

「これから気をつける」では響きません。「来月からあなたのシフト希望を週単位で先に確定する」のように、対象と期限を明確にします。曖昧な約束はかえって不信を招きます。

約束した内容を必ず記録する

口約束は忘れられがちです。改善項目と期限をメモにして双方で共有し、後日きちんと振り返ります。実行されない約束は、二度目の退職を確実に早めます。

引き留めない場合の円満な送り出し

送り出すと決めたなら、最後まで気持ちよく辞めてもらうことが店の財産になります。

まず感謝を言葉にする

これまでの貢献を具体的に伝えます。良い別れ方をしたスタッフは、店の評判を支える応援団になってくれます。

引き継ぎ計画を一緒に立てる

最終出勤日までの業務の棚卸しと、誰が何を引き継ぐかを整理します。学生バイト中心の居酒屋やカフェは卒業・進路での退職が多く、引き留めの是非が分かれる一方、引き継ぎは比較的シンプルです。対してフレンチや個人店は専門技能の代替が難しく、調理工程やレシピの引き継ぎ計画が特に重要になります。

出戻りの余地を残す

「また働きたくなったらいつでも声をかけて」の一言が、将来の貴重な戦力につながります。一度辞めても戻れる店は、採用コストの面でも強みを持ちます。

知っておきたい法的な基礎

感情論を整理するうえで、最低限の法律知識は店長の安心材料になります。

退職の申し出と期間

期間の定めのない雇用では、民法627条1項により「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定められています。就業規則で「1か月前」と定めても、この2週間ルールが優先されると解されています。引き留めはあくまで本人の同意が前提であり、強い慰留で退職を妨げることはできません。

有給休暇と最終シフト

要件を満たすアルバイトにも年次有給休暇は発生します。最終勤務に向けては、残日数の確認と消化希望のすり合わせを早めに行いましょう。シフトを一方的に詰め込むのではなく、本人の権利を踏まえた調整が円満退職の土台になります。

実践1:引き留め判断フローチャート

面談の流れを分岐で押さえておくと、その場で迷いません。

【退職の申し出】
   ↓
「話してくれてありがとう」と受け止める/その場で結論は出さない
   ↓
改めて面談の場を設定(落ち着いた時間・場所)
   ↓
退職理由を傾聴(建前→本音を聞き分ける/4つの型で整理)
   ↓
<店側の工夫で改善できる理由か?>
   ├─ Yes → 本人にとっても良いか/他メンバーへの影響を確認
   │         ├─ 引き留める価値あり
   │         │     → 改善案を「いつ・何を」で提示し再考を依頼
   │         │     → 約束を記録し、期限後に振り返り
   │         └─ カウンターオファー(条件上乗せ)は慎重に判断
   │
   └─ No(進学・転居・体調・前向きな進路 等)
             → 円満退職へ
             → 感謝を伝える → 引き継ぎ計画を一緒に立てる
             → 有給・最終シフトを調整 → 出戻りの余地を残す

実践2:面談スクリプト テンプレート

そのままアレンジして使える台本です。

最初の受け止め

「話してくれてありがとう。きっと色々考えた上でのことだよね。まずはあなたの気持ちをちゃんと聞きたいから、少し時間をもらえるかな」

本音を引き出す質問

「差し支えなければ、辞めようと思った一番大きなきっかけを教えてもらえる?」
「この半年で、しんどいなと感じた場面はどんなときだった?」
「もし◯◯が変わったとしたら、続けたい気持ちはある? 正直なところで大丈夫だよ」

引き留める場合の言葉

「その点は店として改善できる。来月から具体的にこう変える。期限を決めて取り組むので、もう一度だけ考えてもらえないかな」

送り出す場合の言葉

「分かった。あなたの決断を尊重するよ。これまで本当に助かった。最終日まで引き継ぎを一緒に進めよう。気が向いたら、いつでも戻ってきてくれていいからね」

まとめ

退職の申し出にはまず動揺せず、その場で結論を出さずに本音を聴く。

引き留めの是非は「改善できるか・本人に良いか・チームへの影響・上乗せのリスク」で冷静に判断する。

引き留めても送り出しても、約束の実行と円満な引き継ぎが次の離職を防ぎます。

明日から動ける一歩:まずは現スタッフ全員の有給残日数と次回シフト希望を一覧で把握しておきましょう。いざ申し出を受けたとき、慌てず誠実に向き合う準備になります。


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