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人手不足

飲食店の最低賃金改定への対応2026|値上げと生産性で乗り切る実務

最低賃金の改定は、いまや飲食店の利益を左右する最大の変数のひとつです。令和7年度(2025年度)は全国加重平均が1,121円となり、前年から66円上がりました。これは目安制度が始まった1978年度以降で最大の引き上げ幅です。パート・アルバイト比率の高い飲食店にとって、影響は他業種より大きく出ます。本記事では、改定の事実関係を一次情報で確認したうえで、自店の人件費インパクトの試算方法、価格改定、生産性向上、公的支援の使い方までを、明日から動ける順番で整理します。不安を煽るためではなく、冷静に手を打つための材料としてお読みください。

2025〜2026年の最低賃金改定で何が起きたか

まず、数字を正確に押さえます。報道や記事によって金額が食い違うことがありますが、それは「目安」と「実際の改定額」を混同しているケースが大半です。

令和7年度改定の確定数値

厚生労働省の答申によると、令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となりました。前年度の1,055円から66円の引き上げで、引き上げ率はおよそ6%です。全47都道府県で初めて1,000円を超えました。最高額は東京都の1,226円、最低額は1,023円です。最高額に対する最低額の比率は83.4%まで改善し、11年連続で地域差が縮まっています。発効は令和7年10月1日から令和8年3月31日にかけて、都道府県ごとに順次という形です。

「目安1,118円」と「実際1,121円」の違い

中央最低賃金審議会が示した引き上げの「目安」は全国加重平均で63円(1,118円相当)でした。一方、各都道府県の審議会が決めた実際の改定額は、多くの地域で目安を上回り、平均66円・1,121円に着地しました。各県が63〜82円の幅で引き上げたためです。記事を読む際は、それが「国の目安」なのか「自県の確定額」なのかを区別してください。実務で使うのは、必ず自店が所在する都道府県の確定額です。

2026年度(令和8年度)の改定はどうなるか

2026年度の改定に向けた議論は、2026年3月に審議が始まっています。改定額は本記事公開時点(2026年6月)では未確定です。例年、改定の目安は夏(7〜8月)に答申され、秋以降に発効します。最新の金額は厚生労働省の最低賃金ページで確認してください。なお政府は、骨太方針2025で「2020年代に全国加重平均1,500円」という目標を掲げています。2026年6月時点で確認できた範囲では、この目標を達成するには毎年7%前後の引き上げが必要とされ、上昇基調が続くという前提で経営計画を立てるのが現実的です。

自店の人件費インパクトを試算する

「全国平均が66円上がった」と聞いても、自店にいくら効くのかは別の話です。ここを数字で押さえると、打ち手の優先順位が決まります。

なぜ飲食店は影響が大きいのか

宿泊業・飲食サービス業はパート・アルバイト比率が高く、賃金の多くが最低賃金近辺に張り付きやすい構造です。そのため最低賃金が上がると、製造業などより人件費が敏感に反応します。加えて離職率も高く、令和5年の厚生労働省・雇用動向調査では宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.6%でした。採用・教育コストも継続的にのしかかります。

業態によって効き方が変わる

同じ飲食店でも、業態によって痛みの出方は異なります。人件費率が高い居酒屋は、最低賃金上昇がそのまま利益を削ります。原価率の高いラーメン店は、人件費を価格に乗せる余地が原価で圧迫されがちです。客単価の高いフレンチは1人あたりの付加価値が大きいぶん価格転嫁の自由度が比較的高い一方、サービス人員の質を落とせません。回転重視のカフェは、ピーク時の人員配置と滞在時間の管理が利益の分かれ目になります。自店がどのタイプかを意識して、後述の打ち手を選んでください。

実践A:年間人件費増を計算する

試算はシンプルな式で十分です。まず全体像をつかみます。

最低賃金引き上げによる年間人件費増(円)=引き上げ額(円/時)× 対象スタッフの年間総労働時間

具体例で見ます。最低賃金近辺で働くパート・アルバイトが合計で月800時間(年間9,600時間)働いている店を想定します。今回の引き上げ額を自県で70円とすると、70円 × 9,600時間 = 年間67.2万円の人件費増です。ここに社会保険料の事業主負担や、最低賃金近辺のスタッフに合わせて上げる必要が出る中位スタッフの賃金(賃金の上方圧縮を避ける調整)が加わるため、実際の負担はこれより膨らみます。月商や粗利と並べて、何%の値上げや何時間の労働時間削減で吸収できるかを逆算してください。

打ち手1:価格改定でムリなく転嫁する

人件費増を売上でカバーする最初の手段が価格改定です。一律値上げではなく、設計で痛みを和らげます。

端数と心理的価格を設計する

980円を1,000円にするより、980円を1,050円や1,080円にするほうが、心理的な抵抗を抑えつつ確実に粗利を確保できます。値上げ幅を全品一律にせず、看板商品は据え置き、サイドやドリンクで取る方法も有効です。注文時に必ず目に入るドリンク・デザートは、利益率が高く値上げの体感が出にくい領域です。

メニュー設計で客単価を上げる

メニューエンジニアリングの考え方で、利益率が高く人気のある商品を目立つ位置に配置し、セットやコースで自然に単価を引き上げます。原価率の高いラーメン店なら、トッピングやサイドメニューで1点単価を積み増す設計が現実的です。値上げと同時にメニューの見せ方を変えると、単なる値上げという印象が薄まります。

打ち手2:人時生産性とシフトを最適化する

売上を上げるだけでなく、同じ売上をより少ない労働時間で生む発想が欠かせません。ここは経営者の工夫で改善できる領域です。

人時生産性を指標に置く

人時生産性は「粗利益 ÷ 総労働時間」で求めます。1時間あたりいくらの粗利を生んだかを示す数字で、最低賃金が上がるほどこの指標の重要度が増します。人件費率の目安は売上の30%前後とされますが、率だけを追うと売上が落ちたときに人を削りすぎて品質が落ちる罠があります。率と人時生産性の両輪で見てください。

シフトをピークに合わせる

来店の波と人員配置がずれていると、暇な時間帯に人件費が漏れます。時間帯別の客数データをもとに、ピークに厚く、アイドルタイムに薄く配置するだけで、サービスを落とさずに総労働時間を圧縮できます。仕込みの平準化、ピーク前倒し、券売機やモバイルオーダーによる省人化も、回転重視のカフェやラーメン店では効果が出やすい打ち手です。

打ち手3:業務改善助成金など公的支援を使う

人件費の引き上げと設備投資をセットで進めるなら、公的支援の活用を検討する価値があります。

業務改善助成金の概要

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業に対し、その費用の一部を助成する制度です。厚生労働省によると、引き上げ額に応じて30円・45円・60円・90円のコースが設けられています。対象は中小企業で、規模要件は業種により異なります(一般の産業は労働者300人以下、卸売・サービス業は100人以下、小売業は50人以下など)。助成対象は機械設備の導入やコンサルティングなど、生産性向上・労働能率の増進に資する経費です。券売機やモバイルオーダー、食洗機といった省人化投資が対象になり得ます。

申請のポイントと注意点

助成額の上限や助成率、申請期限、対象経費の細部は年度ごとに見直されます。たとえば令和7年度は、それ以前にあった生産性要件が廃止されました。コース区分や上限額、申請受付期間は変更されることがあるため、申請前に必ず厚生労働省の業務改善助成金ページで最新の要件を確認してください。設備投資は原則として交付決定後の発注が条件になるなど、手続きの順序にも決まりがあります。

よくある誤解を整理する

最低賃金まわりは、思い込みによる対応ミスが起きやすい領域です。代表的な3つを押さえます。

地域差と発効日のズレ

最低賃金は都道府県ごとに金額が異なります。複数県に店舗を持つ場合、店舗ごとに適用額が違う点に注意が必要です。また発効日も全国一律ではなく、令和7年度は10月1日から翌3月31日にかけて順次でした。自店の発効日を確認し、その日から新しい時給で支払う必要があります。「全国一律で10月から」という思い込みは誤りです。

最低賃金の計算に含めるもの

最低賃金を満たしているかの判定では、賃金からいくつかの手当を除外して計算します。精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外割増などは原則として算入されません。基本給ベースで最低賃金を上回っているつもりでも、これらを除くと下回るケースがあるため、実際の支給内訳で確認してください。

賃上げに連動するコスト

時給を上げると、社会保険料の事業主負担や、最低賃金に追いつかれた中位スタッフの昇給も連動して増えます。さらに「年収の壁」を意識して労働時間を抑えるパートが出ると、必要人員が増えることもあります。時給の上げ幅だけでなく、これら波及コストを含めて年間影響を見積もってください。

まとめ

令和7年度の最低賃金は全国加重平均1,121円となり、上昇基調は今後も続く前提で考えるのが現実的です。

対応の軸は、価格改定・生産性向上・公的支援の3つで、自店の業態に合わせて優先順位を決めることが重要です。

まず明日、自店の最低賃金近辺スタッフの年間総労働時間を集計し、本記事の式で年間人件費増を1枚の紙に書き出すところから始めてください。


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