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法令

HACCP義務化、小規模な飲食店の実務|2本柱と3グループで対応する

HACCPが義務だと聞いたが、結局うちの店で何をすればいいのか分からない」。数名で切り盛りする飲食店の店長から、いまも一番多く届く相談がこれです。専門のコンサルや高価な設備が必要に見えて、つい後回しにしている方も多いはずです。

ですが、小規模な飲食店に求められる中身は、実はとても限定的です。この記事では、厚生労働省の一次情報をもとに、義務化の正体・やるべき2本柱・メニューの3グループ分けまでを、今日から書き起こせる形に整理します。読み終えたら、自分の店の衛生管理計画の骨組みが見えるはずです。

HACCP義務化、まず押さえる3つの事実

言葉だけが先行して、要件が誤解されがちな制度です。最初に事実関係を3点だけ固めます。

いつから「義務」になったのか

改正食品衛生法は2018年6月に公布され、HACCPに沿った衛生管理は2020年6月1日に施行、1年の経過措置を経て2021年6月1日に完全施行されました(出典:厚生労働省)。つまり、すでに全ての食品等事業者にとって対応済みであるべき制度です。新規開業の店も、開業時点から対象になります。

根拠は食品衛生法第51条と、食品衛生法施行規則第66条の2から第66条の4です。営業許可とは別枠の「衛生管理の基準」として定められています。

「基づく」と「考え方を取り入れた」の違い

HACCPには2つの区分があります。1つは大規模事業者向けの「HACCPに基づく衛生管理」で、コーデックスの7原則に沿って自前で計画を組み立てます。もう1つが小規模事業者向けの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で、業界団体が作成し厚労省が確認した手引書に沿えば対応できます。

町の飲食店の大半は後者です。ゼロから理論を学ぶ必要はありません。

自分の店はどちらに当たるか

「考え方を取り入れた衛生管理」で足りる小規模営業者等には、食品の取扱いに従事する者の数が50人未満の事業場が含まれます(出典:厚生労働省、食品衛生法施行規則)。提供するメニューが多く変更も頻繁な一般的な飲食店も、この簡略型の対象です。数名規模の個人店は、まず例外なくこちらに該当します。

小規模な飲食店がやることは「2本柱」だけ

手引書が求める作業は、突き詰めると2種類の管理に集約されます。難しく考えず、この2本柱を計画書に書き出すところから始めます。

一般衛生管理のポイント

どんな店でも毎日共通して行う、土台の管理です。手引書では次のような項目が並びます。

  • 原材料の受入確認(鮮度・期限・包装の状態)
  • 冷蔵庫・冷凍庫の温度確認
  • 交差汚染・二次汚染の防止(生食材と加熱済みの分別)
  • 器具の洗浄・消毒・殺菌
  • トイレの洗浄・消毒
  • 従業員の健康管理と衛生的な服装
  • 手洗いの実施

どれも、できる店ならすでにやっている内容です。HACCPは新しい作業を増やすより、こうした当たり前を「決めて・書いて・見返す」形に整える制度だと捉えると気が楽になります。

重要管理のポイント

もう1本の柱が、加熱や冷却など食中毒に直結する工程の管理です。ここでメニューを3グループに分ける考え方が登場します。次の章で具体的に見ていきます。

メニューを3つのグループに分ける

重要管理の肝は、全メニューを調理工程で3つに仕分けることです。料理ごとに細かいルールを作る必要はありません。

グループ1:加熱しないもの

刺身、冷奴、サラダ、生野菜のように、冷たいまま提供する料理です。確認の中心は温度で、冷蔵庫から出したら速やかに提供し、室温で放置しないことが要点になります。

グループ2:加熱するもの

焼き物、揚げ物、炒め物など、加熱して熱いまま出す料理です。中心部までしっかり加熱できているかを、目視や中心温度で確認します。

グループ3:加熱後に冷却・再加熱するもの

カレーや煮込み、ソース類、作り置きのように、一度加熱してから冷まし、再加熱して提供する料理です。冷却と再加熱の温度帯の通過が長引くと菌が増えるため、3グループの中では最も注意が要ります。

加熱の目安となる数字

ほとんどの食中毒菌は、食品の中心温度が75℃で1分以上の加熱で死滅するとされます(出典:厚生労働省)。二枚貝などノロウイルスの感染リスクがある食材は、中心温度85〜90℃で90秒以上が目安です。この2つの数字を厨房に貼っておくだけでも、判断が揃います。

業態で変わる「重点グループ」

3グループの考え方は共通でも、力を入れる場所は業態で変わります。自店の主力メニューがどこに偏るかを見ると、優先順位がはっきりします。

居酒屋・カフェ

刺身や生もの、サラダ、サンドイッチを多く出す店は、グループ1の比重が高くなります。冷蔵庫の温度管理と、提供までの時間短縮が守りの中心です。

ラーメン・定食

スープや煮汁を長時間高温で保つ業態は、グループ2の高温保管が要点です。保温の温度が下がりきらないよう、火加減と保管温度を見ます。

フレンチ・イタリアン

ソース、テリーヌ、真空調理、作り置きのデザートなど、加熱後に冷却して使う工程が多く、グループ3の管理が重くなります。急速に冷ます工夫が効いてきます。

記録は「振り返り」のためにある

記録は提出のためではなく、自分の店を守るために残します。手引書が示す流れは、計画の策定・実施・確認と記録・振り返りの4ステップです。

何を記録するか

冷蔵庫の温度、加熱の確認、手洗いや清掃の実施など、計画に書いた項目を「できた/できなかった」で日々チェックします。問題があったときに何をしたかも書き添えます。1日1枚の様式に収まる分量で十分です。

保存期間と振り返り

記録は手引書が推奨する期間(おおむね1年が目安)保存し、1か月単位などで定期的に見返します。同じ失敗が続いていれば、計画や手順を見直します。保健所の立入時に提示を求められることもあるため、すぐ出せる場所にまとめておく手があります。

手引書の入手と進め方

小規模な一般飲食店向けには、公益社団法人日本食品衛生協会の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」(令和6年1月改訂)があります。厚労省サイトと同協会サイトから入手できます。古い版が手元にある場合は、最新版で内容を確認してください。

進め方は、手引書の解説で自店の危害要因を把握し、ひな形で計画を作り、従業員に周知し、様式で記録し、定期的に振り返る、という順番です。なお食品衛生責任者の設置は各施設で必須であり、衛生管理の前提になります(責任者資格の更新は別記事で扱います)。

【実践】衛生管理計画チェックリスト

まずは下の項目に答えられるかを確認してください。空欄が、これから埋める計画の中身です。

最新版の手引書(自店の業態向け)を入手したか
一般衛生管理の各項目を「いつ・誰が・どう確認するか」で書き出したか
主要メニューを3グループに仕分けたか
グループごとの加熱・冷却・保管の確認方法を決めたか
記録様式を用意し、置き場所を決めたか
従業員全員に計画を周知したか
食品衛生責任者を設置しているか
月1回など振り返りの日を決めたか

コピーして使える計画ひな形

【衛生管理計画(簡易版)】店名:______  作成日:____

■一般衛生管理のポイント
・冷蔵/冷凍庫の温度確認:始業時・______/担当:____
・手洗いの実施:作業前・トイレ後・______/担当:全員
・器具の洗浄消毒:______/担当:____
・原材料の受入確認:納品時(期限・鮮度・包装)/担当:____

■重要管理のポイント(メニュー3グループ)
・グループ1(加熱しない)対象:____/確認:冷蔵保管・速やかに提供
・グループ2(加熱する)対象:____/確認:中心75℃1分以上(二枚貝等85〜90℃90秒)
・グループ3(加熱後冷却・再加熱)対象:____/確認:速やかに冷却・再加熱は十分に

■記録と振り返り
・記録様式:1日1枚/保存:約1年/振り返り:毎月__日

まとめ

  • 小規模な飲食店は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で対応でき、手引書に沿えば足ります。
  • 中身は一般衛生管理と重要管理の2本柱、重要管理はメニューを3グループに分けて温度で管理します。
  • 記録は守りの武器です。最新の手引書を入手し、まず計画を1枚書くところから始めてください。

明日から動ける一歩:自店のグランドメニューを印刷し、料理ごとに「1・2・3」のグループ番号を書き込んでみてください。仕分けが終われば、重要管理の計画は半分できあがっています。


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