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食中毒が出たときの法的責任は?
「うちの店で食中毒が出てしまったかもしれない」。そう保健所から連絡を受けた瞬間、頭が真っ白になる方は本当に多いです。お客様への申し訳なさ、これからどうなるのかという不安、お店を続けられるのかという恐怖。そのお気持ち、痛いほどわかります。まずは深呼吸をなさってください。何を、どの順番ですべきか。法的な責任の全体像を、根拠とともに一つずつ整理してまいります。
質問(Q)の整理
ご相談の中身を、いったん整理させてくださいね。多くの方が抱えていらっしゃるのは、次のような不安です。
「お店で食中毒が出たら、どんな責任を負うのでしょうか」。「営業停止になってしまうのでしょうか」。「お客様から損害賠償を求められたら、いくら払うことになるのでしょう」。「自分が逮捕されることもあるのですか」。
こうした責任は、大きく三つの種類に分かれます。保健所による「行政上の責任」、お客様への「民事上の責任」、そして「刑事上の責任」です。順を追って見ていきましょう。
結論(A)
先に結論をお伝えします。お店が原因の食中毒と認定されると、原則として三つの責任が問題になります。
一つ目は、食品衛生法に基づく営業停止などの行政処分です。二つ目は、治療費や慰謝料といった損害賠償の民事責任です。三つ目は、被害が重い場合などに問われうる刑事責任です。
ただし、これらは「必ず全部問われる」わけではありません。被害の程度やお店の対応によって、結論は大きく変わります。誠実な初動対応が、その後を左右します。
法的根拠(条文・通達・判例)
それぞれの責任の根拠を、条文でご説明します。
行政処分の根拠は、食品衛生法です。同法第6条は、病原微生物に汚染された食品などの販売を禁じています。これに違反すると、第60条により、都道府県知事は営業の禁止や期間を定めた停止を命じることができます。お店が原因と認定された場合、3日間程度の営業停止となる例が多く見られます。
民事責任は、民法が根拠です。お店とお客様には飲食の契約があり、安全な料理を提供する義務を果たせなかったと評価されれば、第415条の債務不履行責任を負います。あわせて、調理上の過失があれば第709条の不法行為責任も生じます。さらに、提供した料理を「製造物」とみなし、製造物責任法(PL法)による賠償が認められた裁判例もあります。
刑事責任の根拠は、二つあります。食品衛生法第81条は、第6条違反などに3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金を定めます(2025年6月の改正刑法施行により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されました)。第88条の両罰規定により、法人には1億円以下の罰金が科されることもあります。加えて、お客様に健康被害が出た場合、刑法第211条の業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金)が問われる余地もあります。
具体的な対応ステップ
実際の動き方を、順番にお伝えします。
第一に、保健所への協力です。立入調査には誠実に応じ、食材の仕入れ先や調理記録、従業員の健康状態を正直にお伝えください。隠したりごまかしたりすると、処分が重くなりがちです。
第二に、原因の特定と除去です。検食や食材を保管し、汚染源を調べます。施設の清掃・消毒、従業員への衛生指導も並行して進めます。
第三に、お客様への対応です。誠意あるお見舞いとお詫びを尽くします。治療費などの相談には、加入されている生産物賠償責任保険(PL保険)の活用も検討なさってください。
第四に、再発防止の記録化です。改善内容を文書に残すことが、信頼回復と早期の営業再開につながります。
ケース別の判断
状況によって、見通しは変わります。
アニサキスのケースでは、東京地裁令和3年11月19日判決が、刺身を出す店には混入を防ぐ高度な注意義務があるとして、約50万円の賠償を命じました。生魚を扱うお店は特に注意が必要です。
ノロウイルスなど細菌・ウイルス性の集団食中毒では、被害が広がりやすく、賠償額も大きくなる傾向があります。
一方、お客様が持ち帰った後の家庭内での菌付着が原因と推認された事案では、お店の責任が否定された裁判例もあります。原因がどこにあるかで、結論は分かれるのです。
専門家に相談すべき境界線
ここまで一般論をお伝えしましたが、実際のご事情は一件ごとに違います。
営業停止処分に納得がいかないとき、お客様から高額な賠償を求められたとき、死亡や重症など被害が深刻なとき、刑事事件に発展しそうなとき。こうした場面では、ためらわずに専門家を頼ってください。
保険会社や顧問税理士に加え、最終的には弁護士へのご相談を強くおすすめします。早い段階で相談なさるほど、選べる手立ては多く残ります。一人で抱え込まないでくださいね。
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参考・引用元
- 食品衛生法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233/
- 食品衛生法(厚生労働省 法令データ): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78330000&dataType=0&pageNo=1
- 民法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 刑法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
- 製造物責任法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/406AC0000000085
- 食中毒統計資料(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
- 食中毒は年間を通して発生しています(農林水産省): https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/statistics.html
- 【食品衛生法】営業禁止、停止(法第60条)(千葉県): https://www.pref.chiba.lg.jp/eishi/tetsuzuki/shobun/350/13110-067.html
- お昼の刺身定食で「アニサキス食中毒」、飲食店に50万円の損害賠償(弁護士ドットコムニュース): https://www.bengo4.com/c_8/n_15124/