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法令

店内で客が怪我した場合の責任は?

営業中、お客様が店内で転んで怪我をされてしまった。床が濡れていたのか、段差につまずいたのか。頭が真っ白になりながら、まず救急車を呼ぶべきか、謝るべきか、迷われたことと思います。そして少し落ち着いた頃、ふと胸をよぎるのが「これは全部うちの責任になるのだろうか」という不安ではないでしょうか。とても大切な問いですので、法律の根拠とともに、ひとつずつ一緒に整理してまいりましょう。

質問(Q)の整理

ご相談の中身を、こちらで噛みくだいてみますね。多くの場合、お悩みは次のような形に集約されます。

「店内でお客様が怪我をされたとき、お店はどこまで責任を負うのか」「治療費や慰謝料はすべて支払う必要があるのか」「保険でまかなえるのか」「弁護士に相談すべきなのはどんな場面か」。

つまり、責任の有無と範囲、そして自分を守る備えの両方を知りたい、というのがご本心だと思います。順番に見てまいります。

結論(A)

まず結論からお伝えします。お客様が店内で怪我をされても、それだけでお店が自動的に全責任を負うわけではありません。

責任が生じるのは、店舗の設備に欠陥(瑕疵)があったり、お店が安全への配慮を怠っていたりした場合です。逆に、十分な安全対策をとっていれば、責任を免れたり軽くなったりすることがあります。

また、お客様ご自身にも不注意があれば「過失相殺」で賠償額が減ることも少なくありません。決して「お客様が転んだ=全額負担」ではない、とまず覚えておいてくださいね。

法的根拠(条文・通達・判例)

根拠となる条文を、三つに分けてご説明します。

ひとつめは民法717条(土地工作物責任)です。建物や床、階段といった工作物の設置・保存に瑕疵があり損害が生じたとき、まずその工作物の「占有者」が賠償責任を負うと定めています。お店は通常この占有者にあたります。ただし、占有者が損害防止に必要な注意を尽くしていれば、責任は所有者へ移ります。なお所有者には免責が認められず、無過失でも責任を負う点が特徴です。

ふたつめは民法415条(債務不履行)です。お店はお客様に対し、信義則上の「安全配慮義務」を負うと考えられています。この義務を怠って怪我をさせれば、契約上の責任として賠償が生じます。

みっつめは民法709条(不法行為)です。故意または過失で他人の権利を侵害した者は賠償責任を負う、という一般原則で、安全配慮義務違反はこちらでも問われます。

裁判例の傾向も見ておきましょう。スーパーで野菜の水滴により床が濡れ、客が転倒・骨折した事案では、店が濡れる危険を認識しながら清掃や巡回を怠ったとして、約2,180万円の賠償が命じられました。一方、惣菜の天ぷらが通路に落ちて客が転倒した事案では、控訴審が「客が落とすことは通常想定し難い」として店の責任を否定しています(東京高裁令和3年8月4日判決)。判断の分かれ目は、危険を予見できたか、そして回避する対策をとっていたか、という二点に集約されます。

具体的な対応ステップ

いざ事故が起きたとき、慌てないための流れをお伝えします。

まず最優先は救護です。軽そうに見えても、念のため救急車や病院を手配し、可能なら付き添ってください。次に二次被害を防ぐため、濡れた床や危険箇所をすぐ整え、ほかのお客様を安全な場所へ誘導します。

そのうえで状況を記録します。いつ、どこで、どんな状態だったか。防犯カメラの映像は上書きされる前に必ず保存してください。後の話し合いで何より頼りになる証拠です。

お店に明らかな落ち度がある場合は、誠実にお詫びをします。ただし、その場で「全額負担します」といった賠償の約束を口にするのは避けましょう。責任の範囲が固まる前の安易な言質は、後の交渉を縛ってしまいます。最後に、店長や経営者が前面に立ち、加入している保険会社へ早めに連絡してください。

ケース別の判断

いくつかの場面に分けて考えてみますね。

床の水濡れや油汚れを放置していた場合は、安全配慮義務違反と判断されやすく、お店の責任は重くなりがちです。定期的な清掃・巡回の記録があるかどうかが、明暗を分けます。

暗い通路の段差や、ぐらつく椅子など設備の欠陥が原因なら、民法717条の工作物責任が前面に出ます。賃貸店舗では、その欠陥を管理していたのが借主か所有者かで責任の所在が変わります。

一方、お客様が泥酔していた、走っていた、両手がふさがっていたといった事情があれば、過失相殺で賠償額が大きく減ることもあります。実際に5割の過失が認められた例もございます。状況次第で結論は大きく動くのです。

専門家に相談すべき境界線

どこからプロに頼るべきか、目安をお伝えします。

骨折や後遺障害が残るような重い怪我、提示された賠償額が高額なとき、相手が過失割合や金額で強く争ってきたとき。これらは個人での対応が難しい領域です。

また、保険でどこまでまかなえるか判断に迷うときや、相手が弁護士を立ててきたときも、早めの相談が肝心です。証拠が新しいうちに動くほど、お店を守りやすくなります。

ここまで法律の枠組みをお伝えしてまいりましたが、個別の事情によって結論は変わります。最終的には弁護士へのご相談を、どうか早めにご検討くださいね。


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参考・引用元