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法令

アルバイトが食器を割った時、給料から引いていい?

忙しいピークにアルバイトさんがグラスやお皿を割ってしまう。「何枚も割られるとさすがに困る、給料から引いてもいいのかな」と考えたことは、多くの店長さんが一度は通る道です。損失が重なれば頭を抱えたくなるお気持ち、よくわかります。ただ、ここは労働法のルールがはっきりしている部分なので、慎重に見ていきましょう。

質問(Q)の整理

ご相談は、つまるところ二つの問いに分かれます。ひとつは「割れた食器の代金を、給料から天引きしていいのか」。もうひとつは「そもそも弁償させること自体が許されるのか」です。この二つは似ているようで、答えが異なります。

あなたの状況なら、まず天引きの可否から押さえるのがおすすめです。結論を急がず、根拠となる条文と判例を見ていきましょう。

結論(A)

結論から申し上げます。割れた食器代を給料から一方的に天引きすることは、原則としてできません。理由は二つあります。ひとつは、あらかじめ「割ったら一律いくら」と賠償額を決めておくこと自体が禁じられているから。もうひとつは、賃金は全額を払わなければならず、お店の請求と勝手に相殺できないからです。

お店が実際の損害を請求すること自体は否定されません。ただし請求できる額は信義則で大きく制限され、しかも給料からの天引きという形は取れない、というのが実務の到達点です。

法的根拠(条文・通達・判例)

まず労働基準法第16条です。「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。「割ったら3,000円」のような事前の取り決めは、この条文で無効になります。

次に第24条の全額払いの原則です。賃金は「その全額を支払わなければならない」とされ、控除できるのは法令や労使協定がある場合に限られます。判例も、使用者が自分の損害賠償債権を賃金と相殺することを禁じてきました。最高裁の関西精機事件や日本勧業経済会事件がこの全額払い原則を確立しています。

さらに茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日)は、従業員の賠償責任そのものを制限しました。会社の車両を壊した事案で、請求できたのは損害の4分の1にとどまっています。「損害の公平な分担」という考え方です。

具体的な対応ステップ

まず、就業規則や契約書に「割ったら一律いくら」と書いていないか確認してください。書いてあれば労基法16条違反で無効ですので、削除しましょう。

次に、給料からの天引きは止めます。どうしても弁償を求めたい重大なケースは、給料とは切り離し、本人と話し合うか、最終的には民事手続きで実損を請求する形になります。なお相殺が許される例外は、有効な労使協定があり、かつ本人が自由な意思で同意した場合に限られます(日新製鋼事件)。形式的な同意では足りません。

ケース別の判断

通常営業でのうっかりした食器割れや食材ロスは、基本的にお店が負うべき営業上のコストと考えられます。軽い不注意での弁償請求は、認められても少額か、ゼロになることが多いです。

一方、明らかな故意やひどい不注意で高額な被害が出た場合は、実損の一部を請求できる余地があります。それでも全額ではなく、信義則で減額されるのが通常です。いずれにせよ、給料天引きという手段は取れない点は変わりません。

専門家に相談すべき境界線

被害が高額なケース、本人が弁償を拒んでいるケース、あるいは過去にさかのぼって天引きしてしまっていたケースは、ご自身の判断だけで進めないほうが安心です。一度の対応のまずさが、未払い賃金やトラブルの火種になりかねません。

こうした場面では、最終的には弁護士・社会保険労務士へのご相談をおすすめします。早めに相談するほど、穏当な解決の選択肢は広く残ります。


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参考・引用元