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経営者の暮らし

家族との時間の作り方|「量」より「確かにそこにいた」記憶を

今年も、子どもの運動会には顔を出せませんでした。土曜の昼は、お店がいちばん忙しい時間です。スマートフォンの写真フォルダをめくると、家族で囲んだ食卓にも、誰かの誕生日ケーキの前にも、なぜか自分だけが写っていない。撮っているのが、いつも自分だからです。「いつか、落ち着いたら」。そう言い続けているうちに、子どもはもう、あなたの背丈を追い越そうとしていないでしょうか。家族のために働いているはずなのに、その家族と過ごす時間が、いちばん削られている。この仕事の、いちばん切ない矛盾かもしれません。

あなたの繁忙期は、家族が家にいる時間と重なっている

飲食店の難しさは、稼ぎ時がそのまま、世の中の団らんの時間だということにあります。週末、祝日、お盆、年末年始。家族がそろって過ごすその時間こそが、あなたにとっては一年でいちばん気の抜けない戦場です。世間が休んでいるときに働き、世間が働いているときに仕込みをする。この構造のすれ違いは、あなたの努力が足りないせいではありません。

数字も、それを物語っています。厚生労働省の調査では、飲食サービス業などの月間の所定内労働時間は約154.9時間と、産業全体の平均(約148.5時間)より長めです。さらに飲食店ドットコムの調査によると、月8日以上の休みを取れている飲食店は、わずか28%ほど。裏を返せば、7割を超える店が、月8日の休みすら確保できていないことになります。

経営者ともなれば、その休めない一日の多くを、自ら背負っています。「家族には申し訳ない」。そう思いながらも、店を閉めるわけにはいかない。罪悪感と責任感のあいだで、心がすり減っていく。けれど、ここで覚えておいてほしいのです。家族が本当に求めているのは、長い時間ではなく、確かに向き合ってくれる時間かもしれない、ということを。

「量」が無理なら、「質」と「予定」で取り戻す

まとまった休みが取れないなら、短くても確実な時間を、先に予定として確保してしまいましょう。

たとえば、朝の十五分。子どもが学校へ行く前の、コーヒー一杯ぶんの時間です。営業後の深夜ではなく、一日の始まりに家族と顔を合わせるほうが、お互いの心に残ります。あるいは、週に一度「この日の夕食だけは必ず一緒に」と決めてしまう。仕込みを前倒ししてでも、その一食を守る。短くても「必ずある」時間は、家族にとって何よりの安心になります。

定休日の使い方も、見直す価値があります。たまった事務仕事に追われて終わるのではなく、半日でいいので、家族との時間として先に押さえてしまう。「定休日は結局、仕事の日」になっていないか、一度ふり返ってみてください。

そして、もし可能なら、営業時間そのものに手を入れることも選択肢です。ランチをやめて夜に集中する、定休日を一日増やす。売上への不安はあるでしょう。けれど、休みを増やしたことで、かえって人が集まり、店が回るようになった例も少なくありません。

専門家の視点:休むことは、店を守ることでもある

「休んだら売上が落ちる」。その不安は、痛いほど分かります。けれど、飲食業の働き方改革をめぐる調査では、休日を増やすなどの取り組みをした店のうち、4割以上が「その後の人材確保に良い影響があった」と答えています。人手不足が深刻な今、働きやすい店であることは、そのまま生き残る力につながります。

家族との関係は、経営にも静かに効いてきます。中小事業所の経営者を対象にした群馬産業保健推進センターの調査では、約6割の経営者が「家族は一番の理解者だ」と答えました。いちばん近くで支えてくれる人との時間を削り続けることは、あなた自身の心の支えを細らせることでもあるのです。

もし、家族とのすれ違いが深く、関係そのものに悩みを抱えているなら、一人で抱え込まず、家族で話す時間を持つことや、必要に応じて専門の相談窓口を頼ることも考えてみてください。

すれ違う時間を、つなぎ直す小さな工夫

顔を合わせる時間が短いぶん、つながり方を工夫している経営者もいます。たとえば、仕込みの合間に、子どもへ一言だけメッセージを送る。手が離せない日でも、「いってらっしゃい」「おやすみ」のひとことは届けられます。短い言葉でも、毎日続けば、それは確かな「気にかけているよ」というサインになります。

もうひとつ、おすすめしたいのが、家族を店に少しだけ巻き込むことです。定休日の仕込みを一緒にする、新しいメニューの感想を聞く、たまには店に顔を出してもらう。あなたの仕事を「家族から時間を奪うもの」ではなく、「家族でわけあうもの」に変えていく。そうすれば、店と家庭は、少しずつ対立しなくなっていきます。

完璧な親や、完璧な伴侶でいる必要はありません。大切なのは、短くても本気で向き合う時間と、「あなたを大事に思っている」という気持ちが、ちゃんと伝わっていること。時間の長さより、心の向きのほうを、家族はずっとよく覚えているものです。

同じ立場の店の、思いきった選択

ある飲食企業は、めずらしく土日祝日を定休日にしています。「家族全員でご飯を食べる時間を、もっと大切にしてほしい」「結婚して子どもがいても、飲食の仕事を続けられる会社にしたい」。経営者のそんな思いから生まれた働き方で、長期の休みも取りやすくしているそうです。

別の有名チェーンでは、勤務終了から翌日の始業まで一定の間隔をあける「勤務間インターバル」を取り入れ、開店準備や閉め作業の段取りを見直しました。仕組みを変えれば、休みは生み出せる。その実例が、確かにあります。

明日を、ほんの少し軽くするために

家族のために始めた店が、家族との時間を奪っているように感じる夜があるかもしれません。けれど、時間は長さだけがすべてではありません。十五分でも、週に一度でも、「あなたが確かにそこにいた」という記憶は、家族の中に静かに積もっていきます。

今日できることは、ひとつでいい。明日の朝、コーヒーを一杯、家族と飲む時間を、予定に書き込んでみてください。

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参考・引用元