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業態深堀

寿司店、回転 vs カウンター

同じ「寿司」という看板を掲げながら、回転寿司とカウンター寿司ほど中身の異なる商売はありません。片や1皿120円を1日に何十万皿と回す装置産業、片や1人2万円のおまかせを職人が握る予約商売です。客単価には数十倍の開きがあり、原価率も人件費の考え方もまるで違います。だからこそ、自店がどちらの土俵で戦っているのかを取り違えると、打つ手をことごとく外します。本稿では回転とカウンターの収益構造を数字で並べ、大手チェーンのIRと個人店の現場を行き来しながら、寿司という業態の二極構造を経営者目線で解きほぐしていきます。先輩からの現場報告だと思って読んでください。

市場規模と現状

まず全体像です。日本フードサービス協会の推計では、2023年度の外食産業市場は24兆1,512億円でした(日本フードサービス協会)。このうち「すし店」の市場規模はおよそ1.5兆円とされています。寿司は外食のなかでも独立した大きな業態だと押さえておいてください。

そのなかで成長を牽引しているのが回転寿司です。みなと新聞の民間調査によると、2024年の国内回転寿司市場は売上高8,318億円(前年比6.2%増)、店舗数4,270店(同1.2%増)となりました(みなと新聞)。2023年が7,829億円(前年比8%増)でしたから、2年連続で6〜8%の伸びです。2025年はさらに5.5%増の8,773億円が見込まれています。市場の約半分強を回転寿司が占める計算で、この成長は上位チェーンの積極出店と客単価上昇が支えています。

一方、カウンターを構える個人店の側は様相が違います。中価格帯の街場の寿司屋は、回転チェーンとの競争と後継者不足で苦戦が続いています(業界調査)。ところが客単価1.5万円以上の高級店は、円安を背景にしたインバウンド需要で客単価が上がり、予約が取れない状況です。観光庁は2030年に訪日客6,000万人・消費額15兆円を掲げており、富裕層の寿司体験はその目玉になっています。つまり寿司業界は「回転チェーンの拡大」「高級店のインバウンド好況」「中間層の地盤沈下」という三層に割れています。これが現状の出発点です。

収益構造 ―― 回転とカウンターを並べて見る

ここからが本題です。両者の損益の組み立ては、似て非なるどころか正反対です。

回転寿司は「低単価・高回転・低原価の装置産業」です。 客単価はチェーンや時間帯で幅がありますが、おおむね1人1,300〜1,600円が目安です。利用者調査でも単価は緩やかに上昇しています(All About)。原価率はネタ単体で見ると高く、上場各社の粗利率は55%前後、営業利益率は5%前後が業界水準です(note財務分析)。注目すべきは原価のかけ方です。卵焼きは原価率10〜20%、逆にウニは75〜85%とほぼ赤字。高原価のネタを「客寄せ」に使い、低原価のサイドメニューで利益を取り戻す構造になっています。

そのサイドメニューが回転寿司の生命線です。味噌汁・茶碗蒸し・麺類・デザートは、寿司より客単価を押し上げつつ原価率をならす役割を担います(元店長コラム)。「大人は寿司、子どもは寿司以外で満足させ、家族で習慣化させる」のが王道の設計です。装置産業ゆえに、回転レーン・タッチパネル・自動受付・配膳ロボといった設備投資で人件費を圧縮し、薄利を回転数で稼ぐ。これが回転寿司の方程式です。

カウンター寿司は「高単価・低回転・高原価の職人商売」です。 客単価はランチで7,000〜1.5万円、ディナーで1.5万〜3万円、超高級店では1人6万円という世界もあります(プレジデント)。原価率は40%が一般的で、弟子の多い都内の名店でも30%程度に抑えるのがやっとです。回転寿司より10ポイント以上高い原価率を、高い客単価で吸収しているわけです。

カウンターの人件費は「職人の腕そのものが商品」という点で本質的に異なります。寿司屋の人件費率は25〜30%が目安とされます。夫婦経営に弟子2人の店なら、客単価2万円・原価率40%で仕入れは月100万円規模、弟子の給料が月50万円、家賃30万円でも、夫婦に月70万円ほど残る試算が成り立ちます。席数が10席前後と限られ、おまかせは予約制・一斉スタートで仕込みを最適化するため、回転数では稼げません。1席あたりの単価を極限まで上げることでしか成立しない商売です。FL比率(原価+人件費)で見ると、回転寿司は原価を抑えて人件費を設備で削り、カウンターは高原価を高単価で受け止める。同じFLでも中身が真逆だと理解してください。

運営課題 ―― それぞれの弱点

回転寿司の最大の課題は原材料相場の変動です。サーモン・マグロ・エビなどは為替と漁獲量に直撃され、円安局面では仕入れが一気に重くなります。装置産業ゆえに固定費も大きく、客数が落ちれば損益分岐点を割りやすい。だからこそ稼働率の維持が至上命題になります。

カウンター寿司の最大の課題は人材です。 「飯炊き三年、握り八年」と言われ、一人前まで10年が常識でした(求人飲食店ドットコム)。1年目は洗い場とホール、2〜3年でシャリ炊き、4〜6年で巻き物、7年目以降でようやく握り。この長い徒弟制度が若者の参入を阻み、後継者不足を深刻にしています。近年は寿司アカデミーのように1年で基礎技術を学ぶ養成校も増え、修業の常識は揺らいでいます。職人=人件費=商品である以上、人が採れなければ店そのものが続きません。

大手チェーンの動き ―― IRから読む

二極の片側、回転チェーンの戦い方は各社のIRに明確に表れています。

スシロー(FOOD & LIFE COMPANIES) は2024年9月期に売上収益4,295億円、営業利益360億円で過去最高を更新しました(FOOD & LIFE IR)。国内スシロー事業は売上2,381億円(前期比15.7%増)、セグメント利益142億円(同191.3%増)と急回復。2023年10月の価格改定後も客数を維持・増加させ、客単価上昇を利益に転換しました。原価率は約50%と業界平均を大きく上回り、「高品質を安く」で模倣困難な価値を作っています。2024年11月時点でも既存店客数105.3%・客単価102.5%と二桁増を保ちました。

くら寿司 は2024年10月期に売上1,738億円(前年比112.1%)、店舗数677店(うち米国64・アジア61)です(くら寿司IR)。商品ごとの細やかな設計で原価率を抑えつつ客単価を伸ばす戦略ですが、2024年11月の既存店客数は前年比99%とやや伸び悩みました。

はま寿司(ゼンショーHD) は2024年3月期に売上1,970億円(前年比16.3%増)、営業利益114億円(同35.5%増)、店舗数667店(国内605・海外62)です(ゼンショーHD IR)。検索者数では557万人で首位という調査もあり、認知の広さが武器です。元気寿司・銚子丸を含め、上場チェーンの粗利率は55〜58%帯に収れんしています。

見逃せないのが「1皿100円」の崩壊です。2022年10月にスシローとくら寿司が値上げし、スシローは黄皿120円・赤皿180円・黒皿360円へ移行しました(ITmedia)。100円皿を残すのは、はま寿司・かっぱ寿司のみとなりました(食品産業新聞社)。2020年に1,100円だった会計が2024年には1,260〜1,320円へと15〜20%上がっています。「企業努力は限界」というのが業界の本音です。原価高騰を価格に転嫁できるか否かが、チェーンの勝敗を分けています。

個人店の生存戦略

では、カウンターを構える個人店はどう生き残るのか。鍵は「回転チェーンと同じ土俵に立たない」ことに尽きます。

第一に単価の引き上げと体験の純化です。中価格帯はもっとも回転チェーンと競合する死の谷です。むしろおまかせ・予約制・カウンター10席という高単価モデルへ振り切るほうが活路があります。客単価1.5万円を超えれば、原価率40%でも十分に利益が残ります。

第二にインバウンドの取り込みです。円安で訪日富裕層には日本の高級寿司が割安に映ります。多言語予約、酒のペアリング、職人との対話といった「体験」を磨けば、観光庁の掲げる消費拡大の波に乗れます。

第三に開業コストの設計です。寿司店の独立開業は初期費用とランニングで1,300万円前後が目安で、内装は居抜き200万円〜・スケルトン500万円〜、物件取得は家賃の6〜10カ月分が相場です(IDEAL)。坪単価60〜80万円×坪数が投資の目安です。10席のカウンターなら身の丈の投資で始められ、固定費の軽さが個人店の強みになります。チェーンが装置で戦うなら、個人店は「顔の見える関係」と「身軽さ」で戦う。そういう棲み分けです。

将来の方向性

回転寿司は今後も成長が見込まれますが、性格は変わりつつあります。100円皿の終焉が示すとおり、「安さ」から「質と体験」への移行が進み、平均客単価は緩やかに上がり続けるでしょう。設備投資による省人化も一段と進み、装置産業としての色はさらに濃くなります。

カウンター寿司は「超高級×インバウンド」と「街場の中価格帯」の格差が広がります。中間層は減り、上位は予約困難店として磨かれていく。職人育成は徒弟制度から養成校・短期育成へとモデルが多様化し、人材確保の巧拙が店の寿命を決めます。寿司という看板の下で、回転とカウンターはますます別の生き物になっていきます。

経営者への示唆

最後に、明日からの判断に使える視点を3つ残します。

1点目、自店がどちらの方程式で回っているかを直視すること。回転型なら稼働率とサイドメニューの粗利、カウンター型なら客単価と1席あたりの収益。指標の置きどころが正反対です。月次PLを見るときも、回転は回転率と客数、カウンターは予約稼働と単価を最重要KPIに据えてください。

2点目、中価格帯の死の谷を避けること。回転にも高級にも振り切れない中途半端な価格帯は、最も競争が激しく利益が薄い。上か下か、戦う土俵を決め切る覚悟が要ります。

3点目、原価変動を価格に転嫁できる関係を作ること。大手でさえ100円皿を捨てました。相場に飲まれない値付けと、それを許容してもらえる顧客との信頼が、これからの寿司店経営の生命線です。回転もカウンターも、結局は「いくらで・誰に・何を売るか」をどれだけ突き詰められるかにかかっています。

📖 さらに深く知る(第3弾より)

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参考・引用元