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比較・選択肢

飲食店物件は賃貸か取得か|資金繰りと出口戦略で比較する

この記事の情報は2026年6月時点のものです。税制や相場は変動するため、個別の判断は必ず税理士・不動産の専門家にご相談ください。

「賃貸か購入か」は、飲食店経営の土台を左右する選択です

物件をどのように手に入れるかによって、開業時の資金負担、毎月の固定費、節税効果、そして事業をたたむ際のコストまで大きく変わります。正解は一つではなく、事業規模・資金力・出店戦略によって最適解が異なります。この記事では、賃貸(リース)と取得(購入・自己所有)を6つの判断軸で整理し、それぞれに向いている経営スタイルを示します。どちらを選ぶべきかを押し付けるのではなく、「自分はどちらに近いか」を考えるための材料を提供します。


1. 判断軸①:初期資金の重さ

賃貸の場合

賃貸で開業する際に最初に支払う費用のうち、最も大きいのが保証金(敷金)です。飲食店舗用物件では、賃料の6〜12カ月分が相場とされており、都心の人気エリアでは最大24カ月分を求められるケースもあります。最近では交渉次第で6〜8カ月程度に落ち着く物件も増えています。

賃料30万円の店舗を借りる場合、保証金を8カ月分とすると240万円。これに礼金(0〜2カ月分)、仲介手数料(1カ月分)、前家賃を加えると、物件取得だけで300〜400万円に達します。さらに居抜き物件なら造作譲渡料が100〜300万円上乗せされる場合があります。スケルトン物件であれば内装・厨房設備工事費が別途必要で、1坪あたり30〜70万円が目安です。

日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査によれば、飲食店の開業費用の平均は約985万円(中央値580万円)で、調達額の平均は1,197万円。自己資金の平均は293万円程度です。

取得の場合

物件を購入する場合、土地・建物の取得費が一括または融資で必要になります。都市部で30坪の店舗用建物を新築する場合、RC造であれば建築費だけで5,000万円以上になることも珍しくありません。既存建物の購入であれば価格帯は物件次第ですが、数千万円規模の自己資金または事業用ローンが前提になります。

事業用ローンは住宅ローンと比べ金利が高めで、審査では事業計画書の収益性が重視されます。初期の現金流出が大きい分、開業後の運転資金が圧迫されるリスクがあります。

小括:初期資金の絶対額は取得のほうが大きく、キャッシュアウトの規模が異なります。賃貸は相対的に少額の自己資金で参入できますが、保証金・礼金の回収しにくさも考慮が必要です。


2. 判断軸②:月々の固定費

賃貸では毎月の賃料が主な固定費です。飲食店の適正家賃比率は月次売上の10%以下が目安とされています。月売上300万円であれば、月額家賃の上限は30万円が目安です。売上が落ち込んでも家賃は変わりませんから、売上変動リスクが直接キャッシュフローを圧迫します。

取得の場合、月々のローン返済が固定費になります。一方で、賃料のように毎月外部に支払い続けるのではなく、返済が進むにつれて自己資本としての不動産持分が積み上がります。ただし、固定資産税(土地・建物の評価額に対して標準税率1.4%)が毎年発生し、修繕費や維持管理費も所有者負担となります。建物の大規模修繕は10〜15年周期で発生するケースが多く、長期的なランニングコストとして織り込んでおく必要があります。

小括:月次の現金流出だけ見れば賃貸のほうがシンプルですが、取得は長期で見ると「賃料を払い続けない」ことで支出総額が逆転するケースもあります。


3. 判断軸③:減価償却・節税効果

賃貸の場合

賃貸では、内装工事費や厨房機器を資産計上して減価償却できます。内装工事の法定耐用年数は建物の構造にかかわらず15年が標準(建物附属設備として)。厨房用機器は8年、簡易な什器は3年程度です。青色申告をする中小事業者は、30万円未満の資産を年間300万円を上限として一括経費計上できる少額減価償却資産の特例も活用できます(個別の判断は税理士へ)。

取得の場合

建物を購入した場合、建物本体の取得価額を法定耐用年数で割った額を毎年経費計上できます。飲食店用建物の法定耐用年数は、構造によって以下のように異なります(国税庁の耐用年数表より)。

減価償却費は実際の現金支出を伴わず経費計上できるため、帳簿上の利益を圧縮し、法人税・所得税の節税効果が生まれます。ただし、売却時には譲渡所得の計算で減価償却累計額を差し引くため、その分だけ譲渡所得が増え、譲渡所得税が高くなる点に注意が必要です。節税効果と将来の売却コストはセットで考えてください(詳細は必ず税理士にご相談ください)。


4. 判断軸④:資産性・財務への影響

取得した不動産は貸借対照表上の資産として計上されます。担保として金融機関に差し入れれば、将来の追加融資の引き出しやすさが増す可能性があります。一方で、多額の固定資産は財務レバレッジを高め、業績悪化時に重荷となるリスクもあります。

賃貸は原則として貸借対照表に資産・負債を計上しません(オペレーティングリースの場合)。財務指標が軽く見える反面、「資産を持たない」という経営スタイルになります。

なお、国際会計基準(IFRS16号)や日本基準の改正により、大手企業ではリース資産・負債の計上が求められるケースが増えています。個人事業や小規模法人での影響は限定的ですが、将来の規模拡大を見越す場合は会計士に確認しておくと安心です。


5. 判断軸⑤:撤退・移転の柔軟性

飲食店の閉店コストは、物件の持ち方によって大きく変わります。

賃貸の場合

賃貸物件を退去する際は、原状回復(スケルトン戻し)工事が多くの契約で義務づけられています。飲食店の場合、解体費用の目安は坪あたり5〜15万円。25坪の店舗なら125万〜375万円が退去時のコストとして発生します(重飲食・ダクト工事が多い場合はさらに高額)。加えて、解約予告期間(通常6カ月前後)の賃料支払いも続きます。

一方で、居抜き売却が成立すれば造作譲渡料を受け取れ、閉店コストを大幅に抑えられるケースもあります。普通借家契約であれば正当な事由がない限り貸主から一方的に追い出されるリスクは低く、テナントとしての地位が法的に保護されています。ただし定期借家契約の場合は、契約期間満了で退去が確定し、再契約は双方合意が前提のため注意が必要です。

取得の場合

事業をやめる際、建物・土地は売却できます。不動産としての流動性があれば撤退時に資金を回収できますが、飲食店専用設計の建物は汎用性が低く、売り手市場でなければ希望価格での売却に時間がかかる場合があります。また、売却までの間も固定資産税や維持費が発生し続けます。事業の撤退判断を迫られた際に「物件が売れない」という制約が意思決定を鈍らせるリスクは考慮しておくべきです。

セール・アンド・リースバック(物件を売却後に同じ物件を賃借する手法)は、取得した不動産を現金化しながら事業を続ける手段として中規模以上の事業者で活用されています。

小括:撤退の速さと柔軟性は賃貸が有利ですが、回収できる資産価値という観点では取得が有利です。


6. 判断軸⑥:融資への影響

開業時の融資審査では、物件取得先に関係なく事業計画の実現可能性が最重要視されます。日本政策金融公庫の新規開業融資では、2024年4月以降、自己資金要件が廃止されました。ただし、自己資金の厚みは審査の印象をよくする傾向があります。

取得の場合、物件が担保になるためプロパー融資(保証協会なしの直接融資)を引き出しやすいケースがあります。ただし事業用ローンは金利が住宅ローンより高く、審査では収益計画の精度が問われます。

賃貸の場合、担保となる不動産がない分、融資はやや組みにくい局面もありますが、運転資金として機動的に資金を動かしやすいメリットがあります。


比較表:賃貸 vs 取得(6軸まとめ)


賃貸の強み・弱み・向いている人

強み

  • 初期資金が少額で済み、手元資金を運転資金として温存できる
  • 立地変更・移転が比較的容易で、商圏の変化に対応しやすい
  • 多店舗展開時に資本効率よく出店できる
  • 業績不振時に撤退の意思決定がしやすい

弱み

  • 賃料という固定費が永続的に発生し、売上低迷時に直撃する
  • 普通借家でも更新交渉の余地はあるが、定期借家では期間満了で退去が確定するリスク
  • 保証金の一部は敷引き・償却により返還されないケースが多い
  • 「家賃を払い続けても資産が積み上がらない」という経営上の制約

向いている経営スタイル

  • 開業資金が限られ、まず事業の検証を優先したい新規開業者
  • 2〜5年以内に多店舗展開を計画している成長志向の経営者
  • 立地の試行錯誤を繰り返す業態(ポップアップ・短期集中型)
  • 商圏変化の早いエリアで柔軟に動きたい場合

取得の強み・弱み・向いている人

強み

  • 月次賃料がなくなる(ローン返済完済後)ため、長期で見た固定費が逓減する
  • 建物の減価償却費を活用した節税が可能(詳細は税理士へ)
  • 不動産という資産が貸借対照表に積み上がり、担保活用ができる
  • 立地・業態を長期固定して地域に根を張った経営ができる
  • 廃業や世代交代の際に不動産として売却・賃貸転用できる

弱み

  • 初期の資金流出が大きく、開業後の運転資金が薄くなるリスク
  • 建物の維持管理・修繕費用を全額自己負担
  • 撤退時に売却が遅れると固定コストが重荷になる
  • 飲食店特化の建物は汎用性が低く、売却時の買い手が限られることも

向いている経営スタイル

  • 10年以上の長期経営を想定し、1拠点を深耕したい個人・家族経営の店舗
  • 地域の老舗として不動産資産とともにブランドを蓄積したい場合
  • 自己資金が豊富で、開業後の運転資金に余裕がある事業者
  • 事業承継・相続を視野に入れた経営計画を持つオーナー

タイプ別推奨

新規開業(1店舗目)

自己資金が平均293万円程度の場合、物件を購入する資金力は現実的に乏しいのが大半です。まずは賃貸・居抜き物件で初期費用を圧縮し、事業モデルの検証を優先するのが一般的です。居抜き物件の造作譲渡料(相場100〜300万円)を含めても、スケルトン新規内装より大幅に抑えられます。

多店舗展開を目指す経営者

各店舗を購入すると資金が固定化し、次の出店原資が枯渇します。賃貸で資本効率よく複数拠点を確保する戦略が理にかなっています。仕入れ交渉力の向上やブランド認知も多店舗で相乗効果が生まれます。

長期1店舗経営(10年超)

事業が安定してキャッシュが積み上がった段階で、現在の賃貸物件を購入する・または自己資金で別物件を取得する選択肢が浮上します。長期で見れば賃料総額が取得コストを上回るケースもあります。ただし購入タイミングは金利・市況・事業の安定度を踏まえ、不動産・金融の専門家に相談することを推奨します。


判断フローチャート

以下の問いに順番に答えることで、おおよその方向性を絞り込めます。

  1. 自己資金は物件価格の30%以上を充てられるか?
  2. 開業後の運転資金(半年分以上の固定費)を物件取得後も手元に残せるか?
  3. 10年以上、同じ立地・業態を継続する具体的な計画があるか?
  4. 複数店舗への展開を3年以内に計画しているか?
  5. 事業承継・相続・資産形成を経営目標の一つに置いているか?