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焼肉店の収益モデル
焼肉店ほど、損益計算書の見た目と実際の儲かり方がかけ離れた業態は少ないものです。原価率は40%、繁忙日には50%近くまで跳ね上がります。数字だけ見れば「危険水域」です。それでも焼肉が外食のなかで底堅く勝ち残ってきたのには、明確な理由があります。客が自分で焼くから厨房の人手が要らない。ドリンクで粗利を稼げる。換気のよさがコロナ禍で武器になった。原価という一点だけを見て一喜一憂していると、この業態の本当の勝ち筋を見誤ります。本稿では市場の数字を出典付きで押さえたうえで、客単価・回転率・原価率・人件費率という四つの軸から、焼肉店の収益構造を分解していきます。大手チェーンと個人店、それぞれの戦い方の違いまで踏み込みます。
市場規模と現状
まず全体像を数字で押さえます。矢野経済研究所の調査では、2023年度の国内外食市場規模は末端売上高ベースで前年度比6.5%増の31兆2,411億円と推計されています(矢野経済研究所「外食市場に関する調査」2024年)。コロナ禍からの回復が市場全体を押し上げた局面です。
そのなかで焼肉店の市場規模は、年間売上高で約1兆2,000億円と推計されています(日本経済新聞 NIKKEI COMPASS 焼肉店業界)。外食全体のおよそ4%を占める、決して小さくない市場です。
チェーンの店舗数を見ると、業界の構造変化がよく見えます。日本ソフト販売の調査では、2024年7月時点の焼肉チェーン全体の店舗数は2,865店で、前年同月比2.2%減となっています(日本ソフト販売「焼肉チェーン店舗数ランキング2024」)。市場規模は大きいのに店舗数は微減という、二極化の局面に入っているわけです。伸びる業態と縮む業態がはっきり分かれている、と読むのが正確でしょう。
この業態の特異な歴史として、コロナ禍での逆行があります。日本フードサービス協会のデータでは、2020年11月の外食産業全体の売上高が前年同月比92.2%と苦戦するなか、焼肉業態は109.4%と伸びていました(日本フードサービス協会、流通ニュース2020年12月)。各テーブルの無煙ロースターが煙とともに空気を吸い上げ、店内の換気性能が一般飲食店より格段に高い。約60平方メートルの店内の空気を約3分半で入れ替えられるという換気力が、「安心して行ける外食」として家族連れを呼び込みました(中国新聞デジタル)。焼肉店の倒産件数がコロナ禍で過去10年最少を記録したのも、この追い風が背景にあります。設備の重さが、思わぬ局面で武器に転じた好例です。
収益構造を四つの軸で分解する
焼肉店の儲けの仕組みは、一般的な飲食店の常識をそのまま当てはめると読み違えます。FL比率(原価+人件費)を50〜60%に収めるのが定石とされますが(マネーフォワード クラウド)、焼肉は原価が突出して高い分、人件費を構造的に抑えることで全体の帳尻を合わせる業態です。一つずつ見ていきます。
客単価
焼肉は外食のなかでも客単価が高い業態です。一般的な目安として、1人あたり5,000〜15,000円のレンジに収まります(マネーフォワード クラウド)。食べ放題チェーンならもっと手前です。焼肉きんぐの主力「きんぐコース」は2024年9月の改定で3,608円(税込)となりました(食品産業新聞社2024年9月)。これにアルコールの飲み放題やドリンクが乗って、実際の客単価は4,000〜4,500円前後に着地するのが標準的な姿です。
客単価を押し上げる最大のエンジンはドリンクです。焼肉とビール、ハイボール、マッコリの相性のよさは説明不要でしょう。ドリンクの原価率は10〜20%台で、肉の40〜50%とは桁違いに低い。つまり焼肉店の利益は、肉ではなくドリンクとサイドで稼ぐ構造です。ここを理解せずに「肉の原価ばかり」と嘆く経営者は、利益の出口を取り逃がしています。客単価の設計については、別記事「客単価の業態別の目安と上げ方」も併せてご覧ください。
回転率
回転率は店の型によって大きく異なります。食べ放題は時間制限(90分や120分が主流)を設けることで回転を強制的にコントロールできるのが強みです。複数人での利用と時間制限により客席稼働率が高まり、ピーク帯の席を効率よく回せます(食べログ オーナーズブログ)。
一人焼肉のファストフード型はさらに回転を突き詰めた型です。焼肉ライクは1人1台の無煙ロースターと券売機・タッチパネルで、滞在時間を30〜40分台まで圧縮し、ランチ帯の回転を稼ぐモデルを確立しました。一方、個人の上質な焼肉店は1日1〜2回転で、回転より単価で利益を取る。同じ焼肉でも、回転で取るか単価で取るかという設計思想が真逆である点を押さえておきたいところです。
原価率
ここが焼肉の最大の特徴です。上質な肉を扱う店では原価率が40%を超え、繁忙時には50%近くに達することもあります(レストランスター)。これは部位ミックスの構造に起因します。カルビやロース、ハラミといった人気部位は原価が高く、希少部位はさらに高い。一方でホルモンやサイドメニュー、ドリンクは原価が低い。この高低差をメニュー全体でブレンドし、店全体の原価率を着地させるのが焼肉経営の肝です。
食べ放題では肉の原価は概ね1gあたり1円が一つの相場感とされます(食べログ オーナーズブログ)。船井総合研究所が提唱するセルフ焼肉モデルでは、肉を原価率40%前後に設定して値ごろ感を打ち出す設計が示されています(船井総合研究所)。原価を40%まで攻めても成立するのは、後述する人件費の低さが効いているからです。
仕入れ環境にも触れておきます。2024〜2025年のA5和牛枝肉相場はむしろ軟調で、2024年の東京市場の去勢A5加重平均は2015年以来の安値水準まで下げました(日本経済新聞2024年・2026年)。健康志向や対中輸出の停滞が需要を抑えた結果です。高級部位の仕入れ余地が広がる局面ですが、輸入牛やホルモンは別の値動きをするため、部位ごとに相場を見て仕入れを組む目利きが利益を左右します。
人件費率
焼肉が原価率40〜50%でも黒字を出せる最大の理由が、ここにあります。客が自分で焼くため、調理の最終工程を客に委ねられる。厨房は仕込みとカット、盛り付けに専念でき、皿出しさえできれば回ります。一般的な飲食店が原価と人件費の両方を抱えるのに対し、焼肉は人件費を構造的に圧縮できる業態です。
セルフ焼肉モデルでは、ドリンクとサイドの完全セルフ化を組み合わせ、人件費率を極限まで下げる事例が報告されています(船井総合研究所)。これに配膳ロボットやタッチパネル、セルフレジを重ねれば、省人化はさらに進みます。原価で取られる分を人件費で取り返す——これが焼肉の収益方程式の本質です。人手不足対策の全体像は「飲食店の人手不足を解決する完全ガイド2026」でも整理しています。
運営課題
収益構造の裏側には、この業態固有の重い課題があります。
第一に設備投資の重さです。無煙ロースターと各テーブルの吸排気設備は40〜50万円/坪、屋外の排気ダクト工事は15〜25万円/坪が目安とされます(マネーフォワード クラウド)。郊外型ロードサイドの100坪店舗ではロースター設置とダクト工事だけで1,350万〜1,800万円、給排気工事に500万円が乗り、初期費用総額は3,800万〜4,600万円規模に達します。開業費用全体の目安は1,000万〜3,000万円、大型店ではそれ以上です。減価償却の重さが損益分岐点を押し上げる点は、開業前に必ず織り込むべきです。
第二に原価のボラティリティです。牛肉相場、ホルモン価格、輸入肉の為替変動が直撃します。原価率が構造的に高いだけに、相場が数%動くだけで利益が大きく削られます。月次PLで原価率を毎月点検し、メニューのABC分析で利益の薄い品を入れ替える地道な運用が欠かせません(「ABC分析でメニューを絞り込む」参照)。
第三に煙とにおい、そしてメンテナンスです。ダクトとロースターの清掃を怠ると排煙性能が落ち、客の満足度と換気という最大の強みを同時に失います。設備依存度が高い業態ゆえ、保守コストを固定費として見込んでおく必要があります。
大手チェーンの動き
大手の決算を見ると、勝ち負けがくっきり分かれています。
勝ち組の筆頭は焼肉きんぐを運営する物語コーポレーションです。2025年6月期決算で売上高1,239億円(前期比15.6%増)、営業利益92億円(13.1%増)と、5年連続で過去最高を更新しました(物語コーポレーションIR、中部経済新聞2025年)。焼肉きんぐは期末で339店舗(直営212・FC127)まで広げ、2027年6月期にグループ店舗売上高2,000億円を掲げています。値上げを重ねても客足が落ちない、食べ放題のブランド力が際立ちます。
対照的なのが牛角です。コロワイド傘下のレインズが運営し、世界では800店超を抱える世界最大の焼肉チェーンですが、国内は2023年7月の571店から2024年7月の520店へ8.9%減と、不採算店の整理に動いています(流通ニュース)。一方で平日18時までに来店すれば70品以上が1,980円という「早割食べ放題」や、一人焼肉定食といった新業態で来店時間の分散と客層拡大を仕掛けています。縮小と再構築を同時に進める局面です。
郊外型の安楽亭は、2025年3月末でグループ305店舗を展開し、ステーキのどんなどアークミール業態が利益を下支えしています(安楽亭IR、フードリンクニュース)。焼肉単体ではなくステーキ・しゃぶしゃぶへの業態分散で収益を安定させる戦略です。
一人焼肉のパイオニア焼肉ライクは、ファストフード型で一世を風靡したものの、近年は店舗数が減少に転じる局面を迎えています(SPA!/エキサイトニュース2024年)。食べ放題の焼肉きんぐが店舗を増やし続ける一方、単品・高回転モデルが踊り場に入った構図は、業態設計の難しさを物語ります。DX面では焼肉きんぐが配膳ロボットServiを導入するなど、タッチパネル・配膳ロボット・セルフレジの三点セットが大手の標準装備になりつつあります(ソフトバンクロボティクス導入事例)。
個人店の生存戦略
大手と同じ土俵で食べ放題を戦っても、仕入れスケールで勝てません。個人店が生き残る道は、大手が踏み込めない領域にあります。
一つは希少部位と目利きです。一頭買いや部位指定の仕入れで、ザブトンやミスジ、シャトーブリアンといった希少部位を看板にする。原価率は上がりますが、その分高単価で取り返せます。デカ皿で原価率を上げてもなお坪月商を稼ぐ繁盛店の事例もあり、原価を恐れず価値で売る発想が効きます(がっちりマンデー note編)。
もう一つは設計思想の徹底です。回転で取るのか、単価で取るのか。前者ならセルフ焼肉モデルで人件費率を極限まで下げ、後者なら接客と肉質で滞在価値を高める。中途半端が一番危険です。地域での認知を取るためのGoogleビジネスプロフィール最適化や、再来店を促す関係づくりも、個人店ほど効きます。設備投資の重さは個人店にとって特に重いので、ノンダクト無煙ロースターなど初期費用を抑える選択肢を検討する価値もあります。
将来の方向性
焼肉業態の今後を左右する論点は三つです。
第一にDXによる省人化のさらなる深化です。人件費の安さという焼肉の構造的強みは、タッチパネル・配膳ロボット・セルフレジでもう一段引き上げられます。客が焼くという原型に、注文と配膳の自動化を重ねれば、人件費率はさらに下がります。
第二に二極化の加速です。市場規模が横ばいで店舗数が微減するなか、ブランド力のある食べ放題と、目利きで勝負する高単価個人店に客が集中していきます。中間価格帯の個人店が最も厳しい立ち位置になるでしょう。
第三に仕入れ戦略の重要性の増大です。和牛相場が軟調な今は高級部位の仕入れ余地が広がる好機ですが、輸入牛やホルモンの値動き、為替は別物です。部位ごとに相場を読み、原価率を月次でコントロールできる店だけが利益を残せます。
経営者への示唆
焼肉店の収益モデルを一言で言えば、「原価で攻め、人件費で守り、ドリンクで稼ぐ」業態です。原価率40〜50%という数字に怯える必要はありません。客が焼くから厨房が薄くて済み、ドリンクとサイドで粗利を積める。その全体最適が成立しているかどうかが、勝敗を分けます。
まず自店の数字を、原価率・人件費率・客単価・回転率の四つで分解してみてください。原価率が高くても人件費率が抑えられていれば健全です。逆に原価率が標準でも人件費が膨らんでいれば、焼肉の強みを活かしきれていません。月次PLでこの四軸を毎月追い、ドリンク比率と部位ミックスを微調整する。設備投資の減価償却を固定費として正しく見込む。この基本動作の積み重ねが、相場に振り回されない経営をつくります。焼肉は重い業態ですが、構造を理解した経営者にとっては、外食のなかでも底堅く戦える土俵です。
📖 さらに深く知る(第3弾より)
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参考・引用元
- 矢野経済研究所「外食市場に関する調査」(2024年)
- 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」/ 流通ニュース(2020年・2024年)
- 日本ソフト販売「焼肉チェーン店舗数ランキング2024」
- 日本経済新聞 NIKKEI COMPASS 焼肉店業界 / 「A5和牛が11年ぶり安値」(2026年)
- 物語コーポレーション IR / 中部経済新聞「25年6月期 過去最高」(2025年)
- 株式会社コロワイド・レインズインターナショナル / 流通ニュース 牛角関連
- 安楽亭 IR / フードリンクニュース
- 中国新聞デジタル「焼き肉店、いち早く活気 換気の良さ武器」
- マネーフォワード クラウド「焼肉屋の原価率」「開業資金」
- レストランスター「飲食店の原価率ランキング2026」
- 食べログ オーナーズブログ「食べ放題で利益が出る仕組み」「焼肉屋の原価」
- 船井総合研究所「焼肉店も省人化へ セルフ焼肉編」
- ソフトバンクロボティクス 焼肉きんぐ配膳ロボット導入事例
- SPA! / エキサイトニュース「焼肉ライクがまさかの店舗数減」(2024年)
- がっちりマンデー note編「原価率を上げても儲かる焼肉店」